オオタキ(日本) デストロイヤーT-92 (1964年) [AFVモデル]
OTAKI T-92 Airborne Light Tank
T-92はC-130ハーキュリーズ輸送機による空輸、最前線への緊急展開を視野に入れた小型軽量かつ強力な武装を持つ新世代型戦車として1953年に開発されたものですが、あまりにも新機軸を盛り込みすぎて量産に向かず、試作のTナンバーが取れないまま博物館行きとなってしまった珍しい車体です。
その前衛的なスタイルが話題となったこともあり、アメリカの模型メーカーが商品化。その影響で日本国内のメーカーも各種の製品を発売することになりました。
そのひとつがこのオオタキのデストロイヤーです。
オオタキの箱絵にはガスマスクと暗視装置を顔面に装着してカービン銃を持つ兵士が描かれ、T-92のキャラクターに相応しい未来科学戦争絵巻が再現されているようです。
ちなみに実車のT-92には固有のコードネームはありません。
デストロイヤーとは、実はタミヤが1963年にこのT-92を「ワールドタンクシリーズ」の中の一台として発売したときに付けた商品名で、オオタキは名前も造作もこのタミヤのデストロイヤーを参考にして、ふたまわりほど大きなキットとして設計したようです。
僕は以前、タミヤが1967年に「1/50ポケットミュージアムシリーズ」として発売したT-92デストロイヤーを作ったことがあり、もっと大きなT-92のプラモデルはないのかなと探していてこのオオタキ製キットを見つけました。
参考までに、博物館に展示されているT-92の実車写真を見つけましたので載せてみますと……
……実際には、こんな感じの戦車です。
では、オオタキのデストロイヤーはどうでしょう?
オオタキの戦車といえば1979年になって発売された1/35タイガーI中期型が当時としては名作だったのでよく知られていますが、1960年代のオオタキ製AFVキットの持ち味は「独自のアレンジと男らしいしつらえ」……これに尽きると思います。
このデストロイヤーも例外ではなく、資料不足でわからない部分はわからないなりに旺盛な想像力を発揮して「こんな具合でどうだ!」と力業でまとめてしまったかのような独特のプロポーションを持っています。
ちなみにこのキット、スケール表示はまったくありませんが、主砲などのパーツを観察してみると、どうも1/32スケール程度の大きさのようです。
極めつけは架空の「ミサイル発射機構の導入」で、実車のT-92では12.7ミリ機関銃が装備されている小型銃塔に、オオタキのデストロイヤーではまるでエイハブ船長が白鯨に投げつける銛もかくやと思われる太く尖ったミサイルが装着されており、それがスプリングで発射できるようになっています。
このようなアレンジのため、組み立て説明書に描かれた真正面からの「完成図」では、例えものすごく戦車に詳しい人であっても、何の補足説明もなしにこの絵を見せられたら、いったい何という戦車なのかわからないのではないかと思うほど男らしく我が道を行くアレンジが成された戦車プラモデルに仕上がっているのです。
もはや、オオタキがT-92を参考にしつつも独自に設計したオリジナルSF戦車といっても過言ではありません。
……しかし、1960年代中盤のことです。
実物を正確に再現しようにも資料が手に入らない、多少のスケール感は壊してでも何かしら遊べるギミックを加えておかなければ子供たちは買ってくれない……そんな当時の状況では、こういうキットが多かったのも無理のないことでしょう。
パッケージにも大きく書かれている「強力ハイゼットモーター」によるシングルモーターライズ走行キットです。シンプルな構造のメタル製ギヤボックスといい、丁寧に組み込めば元気に走ってくれそうです。
なんとなく全体のフォルムが掴める組み立て説明書の図。
90年代以降に登場した精密かつ正確なAFVキットを見慣れている目には、ビックリするほどおおらかで不思議な印象のキットに見えてしまいますが、これも歴史の生き証人です。
近いうちに、キットの持ち味を生かしつつ丁寧に作って楽しみたいと思います。
オダカ(日本)1/35 日立ブルドーザT12 (1970年) [自動車モデル]
ODK(SANKYOU)1/35 HITACHI T-12 Bulldozer
元は三共製のキットで1965年に初版が発売されています。
1970年になってオダカから再販されたようです。
オダカでは三共から受け継いだ金型を使って1/35スケールの日立ブルドーザT09とT12を発売していますが、内容はプラ成形色が多少違うだけで同一です。
パッケージはT09は実車写真、T12はイラストになっていますが中身はどちらもT09です。
実車は1960年から生産が開始された優秀な車体とのことです。
せっかくですから、T09の写真パッケージも大きなサイズで載せておきましょう。
興味深いのは「マニア向けソリッドモデル」という名称が使われている点で、現在の一般的な呼び名である「プラモデル」はマルサン商店が1959年に商標登録をおこない、その後しばらく他のメーカーは使えなくなってしまったということが影響しているのでしょうか。
僕が幼少時のミニカー集めからプラモデル趣味へと流れてきたことは他でも述べましたが、プラモデルを作り始めて強く感じたのは「プラモメーカーって建機に冷たいなァ」ということでした。
まるで建機や農機はミニカーメーカーに任せとけばいいサ!と言わんばかりで、ブルドーザのプラモデルなんてめったに見かけませんでした。
ところが今から30年ほど昔、当時よく読んでいたホビージャパン誌の「ノルマンディー上陸作戦特集号(1980年9月)」を見たときは驚きました。
巻頭カラーページには上陸作戦中の米軍部隊の様子を模型で再現したディオラマ写真が掲載されていましたが、そこに各種の軍用車両と共にブルドーザのキットが使われているのを発見したのです!
※画像とHJ誌バックナンバーデータはお友達のニャンチューさんからご提供いただきました。ありがとうございました!
……こんなキットあったっけ??
しばらく首を傾げていましたが、それから何年も経って多少は古いキットについての知識が増し、もしかしてあれは国産の1/35キット、つまり日立T09だったのではないかと思い始めました。
もちろん一般的な民間で使われる車体ですが、この記事のライターさんはこの日立T09を米軍用オリーブドラブで塗装して白い星の国籍マークを付けて軍用に見せていたんですね!
それ以来幾年月……このキットに興味津々で探し回ってようやく見つけたのが、このオダカ再販版の三共1/35ブルドーザです。
ミリタリーモデルとも組み合わせられる貴重な1/35スケールのブルドーザです。今からでもぜひ何処かのメーカーが金型を発掘して再販してほしいと思ってしまいます。
まるで1950年代のレンウォール製品を思わせる男らしいばかりの太いランナーに部品がガッチリと組み付いており荒々しい感じも受けますが、それでもラジエーターグリルなどの細部はかなりデリケートにモールドされていて、印象を良くしています。
キャタピラは当時のモーターライズ戦車プラモデルなどと同じゴム製。
今ならばキャタピラ一枚ずつ部品分割されたものを組み立てていく連結式で再現して重量感を演出すべき部分でしょうが、この当時としてはごく一般的な表現だったと思います。
日立の商標を表現するデカールも付属します。
手描きの感じのイラストが良い味を出しています。
こうして見るとラフな印象を受けますが、丁寧に組み立てると手動ながら大型のアームとアクチュエータでドーザーブレードを上下可動できる精密モデルが完成します。
組み立て説明書に掲載されている完成見本写真。
粒子が粗いので細部までは確認出来ませんが、なかなか実感のある仕上がりになりそうです。
こういった建機のモデルは、情景写真を撮ったりディオラマを構築する際の良い小道具になります。
なにせ生活感満点のアイテムですから、ちょっとSF的な趣向のディオラマにも置いておくだけでリアリティを持たせられるわけです。
怪獣特撮映画のセットなどを想像すればお解り頂けるでしょう。
……2010年に入ってタミヤが戦中型の国産ブルドーザを1/48で発売しましたが、ぜひ他のメーカーさんもこの方面のアイテムに目を向けて、楽しい使い方の出来る建機のキットをどんどん発売してほしいと願っています。
オーロラ(アメリカ)1/77 C-119フライングボックスカー (1960年初版) [航空機モデル]
AURORA 1/77 Fairchild C-119 FLYINGBOXCAR
楽しい形の飛行機です。
ちょっとコジャレた言い方をれば“ツインテール”。
頑丈そうな胴体から2本のテイルブームを伸ばした特徴的なシルエットを持つ輸送機で、朝鮮やベトナムの戦乱の中を駆け巡って活躍した機体です。
映画でも本機の原型となったC-82がロバート・アルドリッチ監督の「飛べ!フェニックス」に、C-119がリメイク版「フライト・オブ・フェニックス」に登場しており、またアクション映画「コンエアー」などでも使われていましたから若い世代の方もご存じかと思います。
昔は日本国内の米軍基地でもその巨体を見ることができたでしょう。
僕は航空機キットも好きで時折気に入ったものに絞って作っていますが、C-119は近年になってイタレリが1/72で発売するまで良いキットが無く、この古いオーロラ製を苦労して探すほかありませんでした。
飛行機は飛んでいる姿がやはり最高に格好良いとは思いますが、地上にいる姿勢の場合、C-119のような輸送機は搭載する車両や物資などの小道具とからめてディオラマ展開して、戦闘機や爆撃機の勇ましさとは違った世界観を創れるのが好きです。
C-119は“フライングボックスカー”というネーミングも良いです。
「空飛ぶ貨車」という意味らしいですが、まさに直球勝負、飾りっ気が無いのがイイです。
そういう需要を見越しての製品化なのでしょう。オーロラのキットにも後部の「クラムシェルドア」を開けて出し入れするためのジープや榴弾砲がオマケとして付いています。
空輸されるために一部分解してカバーがかけられたように造作されているのがユニークです。
何せ1960年発売です。前時代的センスのしつらえですが、中でも機体のマーキングが彫刻処理されて塗り分けられるようになっているのが印象的です。
もちろんそれとは別にマーキング再現用のデカールも豊富にセットされています。
組み立て説明書に記載されている完成品見本写真。
なかなか威風堂々たる仕上がりです。
当時オーロラが発売していた他の製品のカタログも載っていて、細かい文字を目で追うとなかなか楽しめます。
1/77という随分落ち着かないスケールのキットですが、各社から1/76で様々な車両キットが発売されていますから、いろいろ組み合わせて飛行場の情景を作るのも楽しそうです。
バンダイ(日本)1/32 ジープ ウィンチ・無反動砲付き (1968年) [AFVモデル]
BANDAI1/32 JEEP with 75mm Recoilless rifle & winch
その昔、少し古めの……ガンダムのプラモデルで一躍脚光を浴びる前の時代のバンダイ製プラモデルを買うと、小さなカタログがオマケに入っていました。
それに掲載されていてずっと気になっていたのがこの1/32ジープです。
これはバンダイ純正のキットではなく、テトラ模型が設計したものがバンダイに移ったものではないだろうかと思っています。設計のクセやデフォルメのセンスが他のテトラ製品と良く似ているように見えます。
テトラが「U.S.機甲師団シリーズ」と銘打って1/32スケールのモーターライズ走行する各種のトラックなどを発売していたのが1967年。このジープはその後に続くラインナップとして製作されたものの、テトラの消滅で同社から発売されることはなく、先発のトラックのキットなどともにバンダイに移ってから発売されたのでしょう。
恐らく……という言い方もおかしいのですが(笑)
全体の雰囲気から推測するに、M38ウィリスMCジープに大型ウィンチと75ミリ無反動砲M20を装備したかなり贅沢なジープを模型化しているらしいのですが、テトラ特有のデフォルメが効いていて、ジープに詳しい方だと車種の特定ができずに首を傾げてしまうような形に仕上がる愉快なキットです。
全体のモールドは1960年代後半の国産キットとしては標準的なもので、シャシーとリジットリーフのサスペンションを別部品化したり75ミリ無反動砲の装填部や照準器部分を細かく再現したりと、かなり精密感には気を使っているのがわかります。
ところが、例えばジープ特有のフロントグリルは漫画のようだし、シートの間には電圧計のようなメーターのある謎の計器がモールドしてあり、加えてエンジンフードを何故か先細りに成形してしまったため、もはやウィリスジープではなくなってしまって何処か別の国のクルマのようになってしまいました。
ちなみにヘッドライトにはムギ球を仕込んで電飾するように指示されています。
車体前端の大型ウィンチにはゴムバンドを仕込んでおきます。
フックを指でつまんで引っ張ってワイヤーを伸ばし、指を離すとワイヤーがスルスルと巻き取られるというわけです。
シャシーにFA-13モーターを載せて後輪を駆動させ、その電力供給は牽引する1/4トントレーラ内に納めた単三電池でおこないます。
これは組み立て説明書に描かれている完成図ですが、キットの特徴をよく表現しています。
このスタイルを見ても、何を参考にして模型化したのか、よく掴めないのが正直なところです。
少なくとも海外製品のコピーではなく、テトラが独自に開発したものでしょうが、もしかするとその昔ハスブロ社が発売していたG.I.ジョー人形用の巨大な1/6スケールのジープや、モノグラム社製のジープを多少は参考にしているかも知れません。
―――― 人気者のジープのことですから、古今東西とても数え切れぬほどの各種モデルが発売されており、一説によると1990年代には金属製玩具なども含めて世界中で3000種類以上が確認されていたそうです。
ひとつの特定車種を扱ったアイテム数としては驚くべき量です。
ジープの生誕60周年をとっくに過ぎてしまった現代では、その数はもっともっと増えていることでしょう。
その中には、こんな珍品もあったのです。
僕はジープが大好きなので、できるだけ精密で素晴らしいプロポーションを持つ模型が欲しいといつも思っていますが、とはいえこういったキットは無理に改造してリアルにするよりも、正直にそのままの形で組み立てて、模型メーカー独自のアレンジによって実車とかけ離れたフォルムになってしまったという事実そのものを楽しむべきではないかと思ってしまいます。
田宮(日本) 1/50 日本陸軍二式戦闘機 鐘馗 (1964年初版) [航空機モデル]
TAMIYA1/50 NAKAJIMA Ki-44 Syouki “Tojo”
ボーイングB-29爆撃機などの迎撃に活躍した逞しいシルエットを持つ短距離型防空戦闘機です。
現在では航空機モデルの主要スケールは1/48になっていますが、1960年代中盤頃まではまだまだ国内製品には1/50スケールが多かったようです。
欧米のプラモデルのスケール設定はフィート・インチから来ているわけですが、メートル法を採用している日本国内では1/48よりもキリのいい数値の1/50というほうが親しみやすかったのかも知れません。
……こんなコトを書いてしまうと日本機の熱心なファンの方からはお叱りを受けそうですが、実は僕は日本製よりも欧米製に好みの機体が多いのです。
たいていの日本機というのは上品で美しいラインを持っていますね。
無駄もなく、そのシルエットに清潔感のようなものさえ感じてしまうことがあります。
このあたりが、たぶん僕の好みに合わないのでしょう。
女性に例えれば、モデルのような美人さんよりも少しムッチリしていて愛嬌のある娘のほうが好きだ……という嗜好が模型趣味にも出てしまうんですネ(笑)
そんなわけで、日本機ならばこの鍾馗や雷電のように、ちょっとヒネリのあるフォルムをした機体が好みなのです。
田宮の「1/50日本傑作航空機シリーズ」は1970年には一部を除いて生産中止となり、新たに設計された高品質の1/48モデルにその座を譲っていくことになったので、僕はほとんど原体験がありません。
ただ、古い田宮のミニカタログなどには掲載されていてその存在は知っており、いつか作ってみたいなァと思っていました。
というのは、少年時代にはバンダイが輸入販売を始めたモノグラム製の1/48航空機キットをよく作っていて、その主脚引き込みや主翼折りたたみなどの可動部分が気に入って、ほぼ同じくらいのスケールで可動部分の多い日本機のキットも作って並べてみたいと思っていたからです。
田宮の「1/50日本傑作航空機シリーズ」は、主脚引き込みやファウラーフラップなどの可動とモーターライズが楽しめるキットでしたから、ぜひ作ってモノグラムのキットと並べてみたかったのです。
しかし時既に遅し。あの当時はこのシリーズの売れ残りを見つけるのは大変でした。ほとんど見たことがありません。
この歳になってようやく巡り会えたような状態です。
機体、主翼の表面には かなりメリハリの効いたモールドが施されています。
ちょっと過剰じゃないかな……と思っても、こういう彫刻は塗装をすると非常に良い印象に仕上がることが多く、とくに昔はエアブラシによる薄塗りではなく塗膜が厚くなりがちな筆塗りが主流でしたから、このくらいパンチの効いた表面処理のほうが効果的だったと思います。
エンジンや細部パーツも相応の仕上がり。
このあたりはモデラーの腕の見せ所でしょう。
キャノピーの透明部品は同時代に販売されていたモノグラムなどの輸入品に比べると厚みや透明度の面でかないませんが、当時の国産キットの大半はこのくらいの仕上がりだったのではないでしょうか。
デカールも比較的充実しており、4種類の塗装からセレクトできるようになっています。
さすがに経年変化で黄ばんでおり、これから作ろうとすると1/48クラスのキットから使えそうなデカールを流用するか、頑張って手描きすることになりそうです。
さて、冒頭で好みの日本機として「日本海軍局地戦闘機 雷電」の名を挙げましたが、このシリーズにもちゃんと雷電が含まれています。
後に名作と言われたタミヤ1/48エアクラフトシリーズの雷電が登場する9年前の製品です。
同じシリーズで好みの機体が手に入るというのはなかなか嬉しいものです。
ちょっと両者を比較してみました。
雷電は1964年 2月の発売、鍾馗は同年5月の発売で、3ヶ月しか差がありませんが、それでも後発の鍾馗のほうが全体的なクォリテイはそうとう向上しているように思えます。
一流メーカーを目指して寸暇を惜しんで遮二無二頑張っていた田宮の努力の表れでしょうか。
現在では鍾馗も雷電も1/48クラスで高品質なキットが簡単に手に入り、作ることが出来ますが、この2機は往時を偲んで、できるだけキットの持ち味を生かしながら製作して、可動部分も存分に楽しみたいと思っています。
東京マルイ(日本) 銛突き漁船 (1981年初版) [艦船モデル]
TokyoMarui 1/72(?) Fishing boat with Micro Boiler
ひと味違うプラキットの得意な東京マルイの漁船です。
一般的なプラモデルというよりも教材……教育玩具的な側面も併せ持っています。
20年ほど前、小型漁船のプラモデルを探し回っていた時期がありました。
故・吉村 昭氏の戦争文学小説「背中の勲章」を読んだのがきっかけとなって、戦時中に日本海軍が徴用した小型漁船を改装して運用したという「特設監視艇」に興味を持ち、ぜひ模型で作ってみたいと思ったのです。
そのときに改造ベースとなるキットとして目を付けて探していたのが、この東京マルイのキットでした。
高校時代に店頭で見かけたことがあり、もしや今でも販売されているのではないか……と探したのですが、結局そのときは手に入りませんでした。
もしかすると比較的短命で終わったキットなのかも知れません。
とにかく面白い“仕掛け”の入っているキットです。
綺麗なブリスターパックの中には、不思議な金属部品と蝋燭が入っています。
これが何かというと……。
なんと超小型のボイラーエンジンなのでした。
東京マルイは「ヒートパワーエンジン」と名付けています。
ボイラー内の水を蝋燭で温めて噴出させ、ウォータージェットの要領で推進力を得るというものです。
小さな小さなボイラーなので、さほどスピードは出なかったでしょうが、それでものどかに水面を進む可愛らしい船体が見たくなります。
船体そのものもよく出来ています。
スケール表示はありませんが、付属のフィギュアやモールドの具合から見て1/72程度だと思われます。
僕は漁船に詳しくありませんが、45フィート、12トンくらいのフネということでしょうか。
このあたりは機会があれば漁船にお詳しい方にご意見を伺いたいものです。
キャビン部分、甲板をはじめとしてモールドも端正で、メリハリも効いています。
これは塗装も楽しそうです。
付属のアクセサリー。
3人の漁師さんも楽しいですが、船上の生け簀に入れるための魚たちまで付属しているのがイイです。
カジキマグロに混じって小型のサメもいます。
組み立て説明書には「図鑑などを見て色を塗ってください」との注意書きがあります。
付属のシール。水に弱いデカールではなく、本当にシールです。
「走らせる場合は旗を燃やさないように注意しましょう」の一文に思わず微笑んでしまいます。
船内でトロトロと灯っている小さな蝋燭で旗のシールが燃えるのも心配ですが、それよりもすべてプラスチック部品で出来ている船体と風にあおられた炎が触れてクニャッと溶けてしまわないか、そちらも心配になってきます。
でも、子供たちも作るであろう製品ですし、東京マルイとしても設計には充分に注意してテストもおこなっていることでしょうし、きっと大丈夫なんだろうと思います。
この蝋燭で航行するヒートパワーシリーズには「漁船シリーズ」と「ボートシリーズ」があったようです。
「かつお竿釣り漁船」はこの銛突き漁船と違う形なのかな?カツオのアクセサリー部品が付いているのかな?……なんて想像すると楽しくなりますね!
金属製ボイラーを含む部品構成からしても、もう再販は難しいのかも知れませんが、こんなに楽しいキットですから、ぜひまた販売して欲しいと思っています。
レベル(アメリカ) M4シャーマン (1956年初版) [AFVモデル]
Revell1/35 M4 Sherman Tank
第二次大戦を代表する戦車として有名なM4シャーマン戦車の中でも珍しいタイプを模型化して、その後に登場した各社のプラモデルに多大な影響を与えた、おそらく世界最古のシャーマン戦車のキットです。
少年時代から戦車のプラモデルは時折小さい1/76や1/48を作りながらも1/35スケールを主体に集めていましたが、当時1/35クラスで作れるシャーマンといえばニチモの1/35、相当古くて実寸も1/32に近いタミヤのM4A3E8、輸入品でなかなか買えなかったモノグラム1/32といったところでした。
そこで非常に気になっていたのが、レベルのシャーマンです。
このキット、実寸が1/35だということを古い模型誌で読んで知ったからです。
それ以来いくつか作りましたが、なかなか楽しいキットなので今もこうして見つけると思わず買ってしまいます。
骨董品的価値があるとはいえ、1956年の発売以来幾度となく再販されている長寿商品なので、よほど貴重な初版箱やモーターライズ版などではない限りベラボウなプレミア価格がつく品ではなく、比較的気軽にヴィンテージ・プラモデルの楽しさを味わえるキットでもあります。
―――― ところでこのキット、冒頭にも少々書いたとおり車体などの形状を注意深く観察すると、多数のバリエーションが存在するシャーマン戦車一族の中でも一際ミステリアスな車種だということに気づきます。
恐らく、今更この古いキットの細部検証を本気でおこなう方もいらっしゃらないでしょうし、模型誌で詳しく採り上げられることも無いでしょうから、自由奔放な模型ヨタ話を心情とするこのブログならではのお題目として、本キットのちょっとしたリサーチを試みようと思います。
車体はよく観察するとM4ハイブリット(後期型M4A1の鋳造車体前部と溶接構造を持つM4の車体主要部を溶接合成したもの。コンポジット・ハルとも呼ばれる)の特徴を持っています。
設計あるいは金型製作の際の何らかの都合か、コンポジット・ハルにしては車体のラインが滑らかにつながり過ぎていて、ちょっと見は後期生産型のM4A1車体に見えるし、コンポジット・ハル特有の車体に残る溶接加工の接合部分も再現されていませんが、これはスライド金型を使わずに生産したため金型に対して垂直面にはモールドが施せなかったということでしょうか。
エンジンデッキ付近は、コンチネンタルエンジン搭載M4の特徴を持ちつつも、フォードGAAエンジンを載せたM4A3と同型の格子状大型点検パネルまでもが並んで表現されています。
リアパネルはかなり悩むところですが、大型のグリルを持つM4A3の特徴が見て取れます。
サスペンションは後期型~戦後型シャーマンによく見られる広軌履帯用HVSS(水平ボリュートスプリングサスペンション)。
キャタピラは第二次大戦中から戦後までHVSS用として広く使用されたT-80スチールトラックを再現したものでしょう。
車体前端部のディファレンシャル・カバーは、前期~中期型のシャーマンによく見られる“ダル・ノーズ”と呼ばれる丸みを帯びたものを再現しているように見受けられますが、形状がわずかに異なっています。
これはモーターライズ仕様キット発売を考え、内蔵するギヤボックスへの干渉を避けた結果かも知れません。
砲塔はビジョンブロック付きコマンダーズキューポラと楕円形ローダーズハッチ、そして幅広のM34A1防盾を持つ、後期型75ミリ砲塔の特徴が確認できます。
ついでにアクセサリーについても見ておきましょう。
初版は、まるで昔のライダーのようなヘルメットにゴーグル、しゃれたマフラーを巻いたダテ男の戦車長と5人の歩兵のフィギュアが付属していました。
何とも豪勢な内容です!
この写真は後の再版ものなので、歩兵の数が減らされてますが、こういった変更も時期によっておこなわれたいたようです。
フィギュアの作風は一体成形ならでは。金属モデルのような風合いがあり、丁寧に塗り分けると何とも味のある仕上がりになります。
デカールには「BLACK MAGIC」と書かれた派手なマーキングとストライプが描かれたペナントも含まれており、オリーブドラブ単一色塗装の車体に華を添えてくれます。
……このように車体、砲塔などの主要部分を細かく検証してみると、このレベル製シャーマンは極めて特殊な型式の車体なのだということがわかります。
つまり、これらの特徴を満たす「一般的な型式として量産され、広く部隊配備されたシャーマン戦車」は存在しないのです。
記録写真の豊富な資料書籍などをいろいろとあたってもみましたが、レベルのシャーマンと同じ形態を持つ実車写真を見つけることは出来ませんでした。
ただ、昭和52年初冬に出版された月刊モデルアート新年号増刊『連合軍を勝利に導いたシャーマン戦車』のシャーマン各型解説ページ中に、次のような記述があるのを発見しました。
「M4E8型中戦車:1943年シャーマンハイブライトI型のシャーマンおよび75mm戦車砲装備の砲塔を流用し、新型防盾、76mm戦車砲M1A1型、450HPのGAA型ガソリン・エンジよび水平懸架装置を装着した。」
(川井 幸雄 氏・原文ママ)
恐らくアメリカ本国で出版されたシャーマン戦車の詳細な資料書籍を翻訳したもののようで、他誌でも同じ記述を見つけることが出来ます。
この文面から見えてくるシャーマンは、主砲が長砲身76ミリだということを除けば、レベルのシャーマンとほぼ完全に合致する形態を備えています。
新型防盾というのは従来のものより幅広になったM34A1を指しているのでしょうし、本来コンチネンタルエンジンを搭載するM4シャーマンハイブリット型にM4A3が装備したフォードGAAエンジンを載せたということは、エンジンデッキの形状がM4とM4A3の特徴を併せ持つことにもつながるので、このキットのモールドのいちばん大きなナゾも解けるわけです。
なお、元来“E8”という名称は「シャーマン戦車シリーズの中で、水平ボリュートスプリングサスペンション(HVSS)を装備している車体」という意味の試作コードである……と述べた資料もあるので、HVSS装備型のM4は総じてM4E8に分類されるわけで、レベルのシャーマンも「M4E8」と呼称して差し支えないでしょう。
数あるM4E8の中でも、レベルの模型化したタイプは「限定制式」とでも言いましょうか、大量生産されて第一線の部隊に配備されたものではなく、恐らく各種のテスト車両として少量が作られただけのものだと思われます。
レベルのキットの部品形状や表面のモールド表現を観察すると、写真や図面だけで設計したキットとは思えません。
つまり、いろいろな型式のシャーマンの資料をゴチャマゼに使って設計したから、誤ってこんな特殊なタイプのキットになってしまった……というのではなく、とにかく「一度は実車を見てつくった模型」だと思われる雰囲気を持っています。
ですから、もしかするとレベルが模型設計のため何処かの陸軍基地の倉庫に残っていたシャーマンを取材した際、たまたまそれがこのM4E8だったということなのかも知れません。
というわけで、レベル社製シャーマンのキットが持つ特徴は、第二次大戦や朝鮮戦争などの記録写真で見られる一般的な量産型シャーマンには見られない、実に異様なものです。
それにも関わらず、ロコHO(1/87)や古いハセガワ1/32、そして田宮1/21のデラックスキット(レベルのキットの75ミリ主砲の部品を他から調達したマズルブレーキ付き76ミリ砲M1A1の部品に換えれば、二周りほど小さいタミヤ1/21シャーマンのレプリカが作れます)はたまたトンデモ戦車プラモの代表格でもあるサンワの「ゴードンタンク」の車体部分など、1960年代に出現した様々な「シャーマン戦車」プラモがこのレベルのシャーマンと同じ型式になっています。
このような例を見ても、1960年代初頭当時このレベルのキットが「シャーマン戦車の貴重で正確な資料」として各模型メーカーから大いに参考にされたことは想像に難くありません。
そしてさらに ――――――――
レベルは当時1/40スケールでミリタリー物をシリーズ展開しており、このシャーマンも1/40シリーズのひとつだと思い込まれていますが・・・初版のパッケージや付属の組み立て説明書などには、どこにも1/40スケールという表示はありません。
各部品を観察してみると、21世紀に入ってタミヤなどが発売した1/35スケールのシャーマン戦車系キットと寸法がほぼ合致しており、近年のシャーマンのキットと部品の互換性があるのではないか?と思わせるほど、きっちりと1/35クラスにまとめられています。
付属のフィギュアも他の同社1/40ミリタリーモデル付属のものと比べてかなり大柄で1/35クラスに仕上げられています。
このことから考えても「シリーズ共通の1/40として設計しておきながらウッカリ間違って1/35サイズになってしまった」と言うのではなく、明らかに最初から1/35スケールとして設計されたという雰囲気が濃厚であり、しかも後にはモーターライズ仕様まで発売されていたわけです。
車体部品の寸法を見てみると、モーターライズ製品として考えた場合、従来から同社がシリーズ展開していた1/40スケールでシャーマンを模型化するとギヤボックス及び電池を入れるスペースがいささか不足してしまうので1/35で設計したのではないか?という推測も成り立ちます。
……つまりレベルは、1950年代中盤の段階で、戦車兵と歩兵のフィギュアまで付属させたモーターライズ対応の本格的1/35戦車キットを企画・販売していたのです!
これが何を意味しているか?
レベル実寸1/35のシャーマンは各社のキットの参考とされただけでなく、偶然である可能性も高いとは言え、その後に世界を席巻した日本製モーターライズ戦車モデルが主要スケールとして1/35を採用、それが現在では世界的な主要スケールとして定着し、しかもAFVキットとフィギュア等との組み合わせによる楽しさがこの趣味のスタンダードとして普及したことを考えると……このレベルのシャーマン、まさに『偉大なる御先祖様』だったとは言えないでしょうか。
ちなみに、古いブラジル・レベル版の箱では他の同社ミリタリーシリーズに合わせるかのようにスケール表示が1/40となっていますが、後に再販されたアメリカ・レベル版では時流を反映して1/35表示に訂正されています。
……古今東西の有名戦車は時代を超えて幾多のメーカーから様々なプラモデルが発売されてきました。
そんな中、古典的な製品と新製品を現在の常識で単純に比較して「出来の善し悪し」を批評するのではなく、そのキットが発売された頃の時代性を考えて評価し、真のクォリティーを見極めて、歴史博物館をつくるつもりで歴代の有名キットを完成品としてコレクションするというのも、深みのある楽しい趣味だと常々思っています。
レベルのシャーマンは、そんな楽しさを堪能させてくれる逸品です。
ニチモ(日本)1/35 アメリカ陸軍155mm自走曲射砲M109 ボストン (1967年初版) [AFVモデル]
Nichimo1/35 M109 SPG Boston
少年時代、1/35クラスの戦車プラモデルと言えばすでにタミヤの独壇場の様相を呈しており、時折見かけた他社製品を試しに買ってみる……といった具合でしたが、そんななかでもニチモはタミヤとダブらないアイテムもけっこう豊富に発売していて、また田舎では流通が今ひとつでなかなか見かけないこともあってお気に入りのニチモ戦車キットを見つけたときはちょっぴり得をしたような気分になりました。
この155mm自走曲射砲 ボストンもタミヤから発売されていない車種でしたが、少年時代にはいちども見かけたことがありませんでした。
……ところで今、なにげなく「155mm自走曲射砲ボストン」という名称を用いましたが、模型ファンの皆さんはご存じの通り「曲射砲」は「榴弾砲」と呼ぶほうが一般的ですし、実際のM109自走砲には後になって大改修されたM109A6が「パラディン」と呼ばれるまで、正式なコードネームは与えられていません。
ですからこの車体は本来「M109自走155ミリ榴弾砲」と呼ばれるものです。
ボストンは、ニチモが独自に付けた商品名です。
しかし何故ボストンなのだろう?
M109の生産地に関する地名を見てもデトロイトやクリーブランドなどで、とくにボストンとは関係がありません。
またアメリカ独立戦争に由来する何かの意味合いがあるのかとも思いましたが、確かにボストンは独立戦争の舞台となった街のひとつで「ボストン包囲戦」などの大きな事件はあったものの、巨大な火砲を搭載した自走砲に相応しいエピソードがあるわけでもなく、はたまた野球のボストン・レッドソックスとの関係もなさそう……と、いろいろ調べてみましたが結局わかりませんでした。
ニチモのM109ボストンは1967年にまず一般的なモーターライズキットとして発売され、1970年には「ゼネコンレッド」使用バージョンが新規発売されていますが、車体の造作そのものは同一です。
大柄なわりにはシンプルな構成で、少し塗装でタッチを付けてあげないと間延びした仕上がりになってしまうかも知れないと心配になりますが、カッチリしたモールドなので近代的な戦闘車両という雰囲気はよく出しているように思います。
キャタピラは当時一般的だったゴム製で、これはモーターライズ走行させるときに抜群の走破性を発揮してくれます。
ただM109は当時の米軍戦車としては比較的珍しい上部サポートローラの無い足回りで、実車のキャタピラはその重みで弛んでおり、ゴムキャタピラだとその雰囲気が出ないため重量感の面では多少不満が残るかも知れません。
1980年代になってイタレリが1/35のM109シリーズを豊富に発売しました。
ちょっとニチモのボストンとカンタンに比較してみましょう。
ランナーの付いているグリーンの部品がイタレリです。
細部表現に関しては、かたやモーターライズ走行を楽しむためのシンプルなキット、かたやそれから20余年後に発売された精密ディスプレイキットなので単純に比較するのは詮なきことですが、基本的な寸法は両車ほぼ合致します。
ニチモはかなりマジメに1/35で模型化していたことがわかります。
―――― 待てよ……。
昔の国産キットは、大なり小なり海外製キットの影響を受けていることがあります。
このボストンはどうなのだろう?……イカンイカン、悪い癖です。
古いプラモデルをいじくり回してばかりいると、すぐにそういう勘ぐりをしてしまうのです。
とりあえず1965年に発売された米・オーロラ社製M109の1/48キットが手許にありますから、まぁ物は試しです。
軽く比較してみようと思い立ちました。
……ドラえもんのデカチビ光線銃を当てたみたい!
しかしニチモのボストンは1960年代の品です。当時は実車の詳細な資料も手に入らなかったでしょうし、タミヤが実践したように海外の博物館などに取材に行くというのもそう簡単なことではなかったと思います。
そんな中、輸入品のキットが自社製品の参考品とされることもよくあったのでしょう。
当時オーロラ1/48キットを買って「この自走砲が1/35だったらなぁ」と思ったファンには喜ばれた……そんな言い方をしては擁護しすぎでしょうか(^^;)
僕は気楽にオーロラ1/48、ニチモ1/35、そしてイタレリ1/35を作り比べて楽しもうと思います。
何だか、この3つのモデリングでプラモデルの歴史の流れそのものが楽しめるような気がするのです。
マッチボックス(イギリス)1/32 シトロエン11レジェ (1980年) [自動車モデル]
MATCHBOX1/32 Citroën 11 Legere
1930年代に一世を風靡したシトロエン11を1/32という小さなスケールで丹念に再現した佳作キットです。
僕の場合、幼い頃のミニカー集めが後の模型趣味の“登竜門”になったのですが、その頃からマッチボックスには馴染みがありました。
当時マッチボックスといえばミニカーの専門メーカーのように思っていました。
国産車を熱心に製品化していたトミカと違って、子供にとっては何処の国の何というクルマなのかもわからないような珍しい車種をいっぱい発売していて、そのカラフルで楽しげなパッケージはどこのデパートのオモチャ売り場でも見つけることが出来ました。
後には1/72航空機や1/76AFVのキットでお世話になることになりますが、そんなマッチボックスのプラモデルのなかでも1/32カーモデルはかなり貴重な存在に思えました。
田舎ではなかなか見かけなかったし、MG TC スポーツや アウトウニオン・タイプD、1928年型パッカードビクトリアなど、他社の出していない車種があったからです。
エアフィックスやモノグラムなども1/32カーモデルで頑張っていましたが、6輪のタイレルP34/2やポルシェ917-10といったサーキットで活躍するクルマたちまでも1/32本格的スケールキットで出してくれたのはマッチボックスくらいではないかと思います。
そんな中でも、ミリタリーディオラマに使えそうだと思って買っておいたのが、このシトロエン11Cレジェです。
戦時中に軍用としても使われたシトロエン11CVは近年タミヤがミリタリーディオラマに使える1/48と1/35キットを発売しましたが、2ドアの11Cレジェの1/32キットは今でも貴重です。
思いのほか豪華な内容。
マッチボックスのキットの特徴は今で言うところの「色プラ」風に、ランナーによって成形色をふんだんに変えて塗装しなくてもそこそこ見栄えのする完成品に仕上がるという趣向が加味されていることで、これは航空機キットなどの場合はともすれば逆効果でオモチャっぽく仕上がることもありましたが、自動車の場合はかなり効果的だったように思います。綺麗なプラ成形色とメッキ部品の組み合わせの美麗さはなかなかのものです。
もちろんキチンと細部まで塗装すれば、数倍雰囲気の良い品に仕上がります。
“レジェ カブリオレ(Legere Cabriolet 1939)”と“レジェ フォー カブリオレ(Legere Faux Cabriolet 1938)”のどちらかを選んで作ることの出来るコンバーチブル。
無理のない部品分割は流石です。
1930年代を舞台にしたノスタルジックなディオラマには良い小道具になりそうです。
―――― 1/32の自動車というと日本では年少者向けイージーキットとしての扱いが普通でしたが、欧米では古くから精密ミニカーの伝統があるからでしょうか、模型メーカーとしても「小さくても精密で存在感のあるキット」として扱っていたようで、現代の目で見ても充実した内容のキットが多く存在するように思います。
マッチボックス社の消滅後、同社製品の多くはドイツ・レベルからパッケージやデカール等の意匠を変えて再販されていますが、ぜひこの秀作1/32カーモデルのシリーズも再販していってほしいと思います。
リンドバーグ(アメリカ)約1/85 コンベアB-58ハスラー (1958~1960年頃初版) [航空機モデル]
LINDBERG1/85 Convair B-58 Hustler
米空軍初の超音速戦略爆撃機ということで話題を呼び、当時は各社こぞって模型を発売したマッハ2の怪鳥です。初飛行は1956年末。1960年から実戦配備されましたが、10年も経たぬうちに退役した短命の機体でした。
僕の不勉強で初版キットの詳しい発売時期が掴めませんでしたが、実機のこうした経歴や箱に印刷されたリンドバーグのロゴマークの形態などにより、1950年代末期か60年代極初期と推定しています。
パッケージや説明書にスケール表示はなく、書籍等では1/128スケールといった紹介がされることも多いようですが、実際に胴体部品などの寸法を測ってみると1/85~1/86程度のスケールだと思われます。
比較的小型スケールの航空機キットは1/72や1/144が主流となっている現代においては何とも中途半端な縮尺に思えますが、別の見方をすればロコ社が豊富に発売していたHOスケール(1/87)の支援車両、輸送車両などと組み合わせて自然なバランスでディオラマ展開できるというメリットもあります。
なお、パッケージには「112パーツ」そして組み立て説明書には「105パーツ」と印刷されていますが、これはオマケの透明パーツ製スタンドなど全部含めてパーツ総数112だが、機体そのものは105パーツで組み上がる……ということでしょう。
……15年ほど前にふとしたことからこのキットの内容を知り、探し回ってようやくこの初版パッケージの物を入手しました。
後に完成品写真箱になって再販もされていますが、できればこのダイナミックな箱絵の版が欲しかったのです。
モノグラムの第二次大戦機、レベルのデルタダガーなど、プロポーションと豊富な可動部分の楽しさを両立させた名作キットの影に隠れて地味な存在ですが、実はこのハスラー、各脚が複雑な機構で折り畳み収納可動となっており、エンジンも再現され完成後もエンジンナセルカバーを外して見ることができるようになっている楽しいキットなのです。
リンドバーグのキットというと現代の視点では古色蒼然としたものも多く玉石混淆といった印象が強いですが、しかしコレを知ってしまったら、そりゃも~作りたくなりますよネ!
なにせ東西両陣営がしのぎを削っていた当時の最新鋭機、軍事機密も多く模型化にあたっての資料収集も大変だったと思いますが、コクピット内部やエンジン部分など、可能な限り細かいモールドを彫り込んで精密感を高めたいという意識が伝わってきます。
古い国産航空機キットに付属している搭乗員フィギュアというと、まるでお地蔵さんかダルマさんのようにポヤ~ンとしたものも多くありましたが、リンドバーグは当時最先端の装備を身にまとった3人のクルーを細かく描写しています。特徴的なポージングによって、これがパイロットこれがナビゲーターと、その役割が解るほどです。
自慢の可動部分。主脚引き込み機構です。
2本のアームが平行に傾き、車台部分がくるっと半回転して主翼内に収まります。
もちろん各カバーも開閉します。
小スケールキットとはいえ、完成すると全長は30センチを超える大物です。
このキットの、コクピット等とは対照的に大人しい機体表面処理を見ていると、サテどんなふうにシルバーを塗れば存在感満点のモデルに仕上がるだろう? 普段は飛行場のディオラマベースに車両やフィギュアとともに展示しておき、ときにはヒョイと手で持ち上げて脚収納ギミックを楽しんで……と、夢の広がるキットです。