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レベル(アメリカ) M4シャーマン (1956年初版) [AFVモデル]

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Revell1/35 M4 Sherman Tank

第二次大戦を代表する戦車として有名なM4シャーマン戦車の中でも珍しいタイプを模型化して、その後に登場した各社のプラモデルに多大な影響を与えた、おそらく世界最古のシャーマン戦車のキットです。

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少年時代から戦車のプラモデルは時折小さい1/76や1/48を作りながらも1/35スケールを主体に集めていましたが、当時1/35クラスで作れるシャーマンといえばニチモの1/35、相当古くて実寸も1/32に近いタミヤのM4A3E8、輸入品でなかなか買えなかったモノグラム1/32といったところでした。
そこで非常に気になっていたのが、レベルのシャーマンです。
このキット、実寸が1/35だということを古い模型誌で読んで知ったからです。
それ以来いくつか作りましたが、なかなか楽しいキットなので今もこうして見つけると思わず買ってしまいます。
骨董品的価値があるとはいえ、1956年の発売以来幾度となく再販されている長寿商品なので、よほど貴重な初版箱やモーターライズ版などではない限りベラボウなプレミア価格がつく品ではなく、比較的気軽にヴィンテージ・プラモデルの楽しさを味わえるキットでもあります。

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―――― ところでこのキット、冒頭にも少々書いたとおり車体などの形状を注意深く観察すると、多数のバリエーションが存在するシャーマン戦車一族の中でも一際ミステリアスな車種だということに気づきます。

恐らく、今更この古いキットの細部検証を本気でおこなう方もいらっしゃらないでしょうし、模型誌で詳しく採り上げられることも無いでしょうから、自由奔放な模型ヨタ話を心情とするこのブログならではのお題目として、本キットのちょっとしたリサーチを試みようと思います。



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車体はよく観察するとM4ハイブリット(後期型M4A1の鋳造車体前部と溶接構造を持つM4の車体主要部を溶接合成したもの。コンポジット・ハルとも呼ばれる)の特徴を持っています。
設計あるいは金型製作の際の何らかの都合か、コンポジット・ハルにしては車体のラインが滑らかにつながり過ぎていて、ちょっと見は後期生産型のM4A1車体に見えるし、コンポジット・ハル特有の車体に残る溶接加工の接合部分も再現されていませんが、これはスライド金型を使わずに生産したため金型に対して垂直面にはモールドが施せなかったということでしょうか。


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エンジンデッキ付近は、コンチネンタルエンジン搭載M4の特徴を持ちつつも、フォードGAAエンジンを載せたM4A3と同型の格子状大型点検パネルまでもが並んで表現されています。
リアパネルはかなり悩むところですが、大型のグリルを持つM4A3の特徴が見て取れます。


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サスペンションは後期型~戦後型シャーマンによく見られる広軌履帯用HVSS(水平ボリュートスプリングサスペンション)。
キャタピラは第二次大戦中から戦後までHVSS用として広く使用されたT-80スチールトラックを再現したものでしょう。


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車体前端部のディファレンシャル・カバーは、前期~中期型のシャーマンによく見られる“ダル・ノーズ”と呼ばれる丸みを帯びたものを再現しているように見受けられますが、形状がわずかに異なっています。
これはモーターライズ仕様キット発売を考え、内蔵するギヤボックスへの干渉を避けた結果かも知れません。


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砲塔はビジョンブロック付きコマンダーズキューポラと楕円形ローダーズハッチ、そして幅広のM34A1防盾を持つ、後期型75ミリ砲塔の特徴が確認できます。


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ついでにアクセサリーについても見ておきましょう。
初版は、まるで昔のライダーのようなヘルメットにゴーグル、しゃれたマフラーを巻いたダテ男の戦車長と5人の歩兵のフィギュアが付属していました。
何とも豪勢な内容です!
この写真は後の再版ものなので、歩兵の数が減らされてますが、こういった変更も時期によっておこなわれたいたようです。
フィギュアの作風は一体成形ならでは。金属モデルのような風合いがあり、丁寧に塗り分けると何とも味のある仕上がりになります。
デカールには「BLACK MAGIC」と書かれた派手なマーキングとストライプが描かれたペナントも含まれており、オリーブドラブ単一色塗装の車体に華を添えてくれます。



……このように車体、砲塔などの主要部分を細かく検証してみると、このレベル製シャーマンは極めて特殊な型式の車体なのだということがわかります。
つまり、これらの特徴を満たす「一般的な型式として量産され、広く部隊配備されたシャーマン戦車」は存在しないのです。
記録写真の豊富な資料書籍などをいろいろとあたってもみましたが、レベルのシャーマンと同じ形態を持つ実車写真を見つけることは出来ませんでした。

ただ、昭和52年初冬に出版された月刊モデルアート新年号増刊『連合軍を勝利に導いたシャーマン戦車』のシャーマン各型解説ページ中に、次のような記述があるのを発見しました。

「M4E8型中戦車:1943年シャーマンハイブライトI型のシャーマンおよび75mm戦車砲装備の砲塔を流用し、新型防盾、76mm戦車砲M1A1型、450HPのGAA型ガソリン・エンジよび水平懸架装置を装着した。」
(川井 幸雄 氏・原文ママ)

恐らくアメリカ本国で出版されたシャーマン戦車の詳細な資料書籍を翻訳したもののようで、他誌でも同じ記述を見つけることが出来ます。

この文面から見えてくるシャーマンは、主砲が長砲身76ミリだということを除けば、レベルのシャーマンとほぼ完全に合致する形態を備えています。
新型防盾というのは従来のものより幅広になったM34A1を指しているのでしょうし、本来コンチネンタルエンジンを搭載するM4シャーマンハイブリット型にM4A3が装備したフォードGAAエンジンを載せたということは、エンジンデッキの形状がM4とM4A3の特徴を併せ持つことにもつながるので、このキットのモールドのいちばん大きなナゾも解けるわけです。

なお、元来“E8”という名称は「シャーマン戦車シリーズの中で、水平ボリュートスプリングサスペンション(HVSS)を装備している車体」という意味の試作コードである……と述べた資料もあるので、HVSS装備型のM4は総じてM4E8に分類されるわけで、レベルのシャーマンも「M4E8」と呼称して差し支えないでしょう。
数あるM4E8の中でも、レベルの模型化したタイプは「限定制式」とでも言いましょうか、大量生産されて第一線の部隊に配備されたものではなく、恐らく各種のテスト車両として少量が作られただけのものだと思われます。

レベルのキットの部品形状や表面のモールド表現を観察すると、写真や図面だけで設計したキットとは思えません。
つまり、いろいろな型式のシャーマンの資料をゴチャマゼに使って設計したから、誤ってこんな特殊なタイプのキットになってしまった……というのではなく、とにかく「一度は実車を見てつくった模型」だと思われる雰囲気を持っています。
ですから、もしかするとレベルが模型設計のため何処かの陸軍基地の倉庫に残っていたシャーマンを取材した際、たまたまそれがこのM4E8だったということなのかも知れません。


というわけで、レベル社製シャーマンのキットが持つ特徴は、第二次大戦や朝鮮戦争などの記録写真で見られる一般的な量産型シャーマンには見られない、実に異様なものです。
それにも関わらず、ロコHO(1/87)や古いハセガワ1/32、そして田宮1/21のデラックスキット(レベルのキットの75ミリ主砲の部品を他から調達したマズルブレーキ付き76ミリ砲M1A1の部品に換えれば、二周りほど小さいタミヤ1/21シャーマンのレプリカが作れます)はたまたトンデモ戦車プラモの代表格でもあるサンワの「ゴードンタンク」の車体部分など、1960年代に出現した様々な「シャーマン戦車」プラモがこのレベルのシャーマンと同じ型式になっています。

このような例を見ても、1960年代初頭当時このレベルのキットが「シャーマン戦車の貴重で正確な資料」として各模型メーカーから大いに参考にされたことは想像に難くありません。


そしてさらに ――――――――

レベルは当時1/40スケールでミリタリー物をシリーズ展開しており、このシャーマンも1/40シリーズのひとつだと思い込まれていますが・・・初版のパッケージや付属の組み立て説明書などには、どこにも1/40スケールという表示はありません。
各部品を観察してみると、21世紀に入ってタミヤなどが発売した1/35スケールのシャーマン戦車系キットと寸法がほぼ合致しており、近年のシャーマンのキットと部品の互換性があるのではないか?と思わせるほど、きっちりと1/35クラスにまとめられています。
付属のフィギュアも他の同社1/40ミリタリーモデル付属のものと比べてかなり大柄で1/35クラスに仕上げられています。
このことから考えても「シリーズ共通の1/40として設計しておきながらウッカリ間違って1/35サイズになってしまった」と言うのではなく、明らかに最初から1/35スケールとして設計されたという雰囲気が濃厚であり、しかも後にはモーターライズ仕様まで発売されていたわけです。
車体部品の寸法を見てみると、モーターライズ製品として考えた場合、従来から同社がシリーズ展開していた1/40スケールでシャーマンを模型化するとギヤボックス及び電池を入れるスペースがいささか不足してしまうので1/35で設計したのではないか?という推測も成り立ちます。

……つまりレベルは、1950年代中盤の段階で、戦車兵と歩兵のフィギュアまで付属させたモーターライズ対応の本格的1/35戦車キットを企画・販売していたのです!

これが何を意味しているか?

レベル実寸1/35のシャーマンは各社のキットの参考とされただけでなく、偶然である可能性も高いとは言え、その後に世界を席巻した日本製モーターライズ戦車モデルが主要スケールとして1/35を採用、それが現在では世界的な主要スケールとして定着し、しかもAFVキットとフィギュア等との組み合わせによる楽しさがこの趣味のスタンダードとして普及したことを考えると……このレベルのシャーマン、まさに『偉大なる御先祖様』だったとは言えないでしょうか。

ちなみに、古いブラジル・レベル版の箱では他の同社ミリタリーシリーズに合わせるかのようにスケール表示が1/40となっていますが、後に再販されたアメリカ・レベル版では時流を反映して1/35表示に訂正されています。



……古今東西の有名戦車は時代を超えて幾多のメーカーから様々なプラモデルが発売されてきました。
そんな中、古典的な製品と新製品を現在の常識で単純に比較して「出来の善し悪し」を批評するのではなく、そのキットが発売された頃の時代性を考えて評価し、真のクォリティーを見極めて、歴史博物館をつくるつもりで歴代の有名キットを完成品としてコレクションするというのも、深みのある楽しい趣味だと常々思っています。
レベルのシャーマンは、そんな楽しさを堪能させてくれる逸品です。


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ニチモ(日本)1/35 アメリカ陸軍155mm自走曲射砲M109 ボストン (1967年初版) [AFVモデル]

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Nichimo1/35 M109 SPG Boston


少年時代、1/35クラスの戦車プラモデルと言えばすでにタミヤの独壇場の様相を呈しており、時折見かけた他社製品を試しに買ってみる……といった具合でしたが、そんななかでもニチモはタミヤとダブらないアイテムもけっこう豊富に発売していて、また田舎では流通が今ひとつでなかなか見かけないこともあってお気に入りのニチモ戦車キットを見つけたときはちょっぴり得をしたような気分になりました。

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この155mm自走曲射砲 ボストンもタミヤから発売されていない車種でしたが、少年時代にはいちども見かけたことがありませんでした。


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……ところで今、なにげなく「155mm自走曲射砲ボストン」という名称を用いましたが、模型ファンの皆さんはご存じの通り「曲射砲」は「榴弾砲」と呼ぶほうが一般的ですし、実際のM109自走砲には後になって大改修されたM109A6が「パラディン」と呼ばれるまで、正式なコードネームは与えられていません。
ですからこの車体は本来「M109自走155ミリ榴弾砲」と呼ばれるものです。
ボストンは、ニチモが独自に付けた商品名です。

しかし何故ボストンなのだろう?

M109の生産地に関する地名を見てもデトロイトやクリーブランドなどで、とくにボストンとは関係がありません。
またアメリカ独立戦争に由来する何かの意味合いがあるのかとも思いましたが、確かにボストンは独立戦争の舞台となった街のひとつで「ボストン包囲戦」などの大きな事件はあったものの、巨大な火砲を搭載した自走砲に相応しいエピソードがあるわけでもなく、はたまた野球のボストン・レッドソックスとの関係もなさそう……と、いろいろ調べてみましたが結局わかりませんでした。



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ニチモのM109ボストンは1967年にまず一般的なモーターライズキットとして発売され、1970年には「ゼネコンレッド」使用バージョンが新規発売されていますが、車体の造作そのものは同一です。


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大柄なわりにはシンプルな構成で、少し塗装でタッチを付けてあげないと間延びした仕上がりになってしまうかも知れないと心配になりますが、カッチリしたモールドなので近代的な戦闘車両という雰囲気はよく出しているように思います。


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キャタピラは当時一般的だったゴム製で、これはモーターライズ走行させるときに抜群の走破性を発揮してくれます。
ただM109は当時の米軍戦車としては比較的珍しい上部サポートローラの無い足回りで、実車のキャタピラはその重みで弛んでおり、ゴムキャタピラだとその雰囲気が出ないため重量感の面では多少不満が残るかも知れません。



1980年代になってイタレリが1/35のM109シリーズを豊富に発売しました。

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ちょっとニチモのボストンとカンタンに比較してみましょう。

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ランナーの付いているグリーンの部品がイタレリです。

細部表現に関しては、かたやモーターライズ走行を楽しむためのシンプルなキット、かたやそれから20余年後に発売された精密ディスプレイキットなので単純に比較するのは詮なきことですが、基本的な寸法は両車ほぼ合致します。
ニチモはかなりマジメに1/35で模型化していたことがわかります。



―――― 待てよ……。

昔の国産キットは、大なり小なり海外製キットの影響を受けていることがあります。
このボストンはどうなのだろう?……イカンイカン、悪い癖です。
古いプラモデルをいじくり回してばかりいると、すぐにそういう勘ぐりをしてしまうのです。


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とりあえず1965年に発売された米・オーロラ社製M109の1/48キットが手許にありますから、まぁ物は試しです。
軽く比較してみようと思い立ちました。



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……ドラえもんのデカチビ光線銃を当てたみたい!

しかしニチモのボストンは1960年代の品です。当時は実車の詳細な資料も手に入らなかったでしょうし、タミヤが実践したように海外の博物館などに取材に行くというのもそう簡単なことではなかったと思います。
そんな中、輸入品のキットが自社製品の参考品とされることもよくあったのでしょう。

当時オーロラ1/48キットを買って「この自走砲が1/35だったらなぁ」と思ったファンには喜ばれた……そんな言い方をしては擁護しすぎでしょうか(^^;)

僕は気楽にオーロラ1/48、ニチモ1/35、そしてイタレリ1/35を作り比べて楽しもうと思います。
何だか、この3つのモデリングでプラモデルの歴史の流れそのものが楽しめるような気がするのです。


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