マックス模型(日本)ノンスケール 1940年型フォードGP “ブリッツバギー”(1973年 初版) [ノンジャンルアイテム]
MAX Free Scale FORD GP 1940 “Blitz Buggy”
MAX(マックス模型)は1970年代前半に精密で多彩な軍用車輌のキットを発売して好事家を喜ばせたメーカーです。
このブログでもその一端をご紹介しているので、原体験の無い若い皆さんにもこのメーカーの製品内容をご理解頂けるのではないかと思います。
ホワイトM3A1スカウトカー(偵察装甲車)
http://vintageplamo.blog.so-net.ne.jp/2010-04-12-4
ダッジ3/4トンWC56/57 コマンドカー
http://vintageplamo.blog.so-net.ne.jp/2010-04-12-3
1970年代前半といえばタミヤが世界に誇るMM(ミリタリーミニチュア)シリーズが驚くべき充実を見せて「ミリタリーモデルは第二次大戦中のドイツ軍アイテムを1/35で作るのがイチバン!」といったトレンドが確立されてきた時期でした。
そんな風潮の中マックスは、まずタミヤと競合しないアイテムで、なおかつ世界的に有名でありながらも当時まだ模型化されていなかった車輌たちを意欲的に発売していきました。
今ではその独自のセンスや先進性が誤解されて、
「マックスのキットはマニアック過ぎてまったく売れず倒産した」
……とか、
「車輌マニアが監修に入ったため、一般受けする売れ筋商品が開発できずに倒産した」
……といった話がまるで都市伝説のように(笑)語られることがありますが……実際は、そうではありません。
元々マックスという会社は極少人数で立ち上げた超零細企業であり、当時としてはハイクォリティ・ハイセンスな製品を開発してはいたものの慢性的に資金も人手も足りず、またマックスの製品に警戒感を抱いた大手メーカーが大攻勢に出たため、そういったメーカーの同系統キットや人気のドイツ軍アイテムに比べれば思ったほど売り上げが伸びなかったし、それならば……と、金型を他社に売却して店終いしたというのが真相のようです。
何しろマックスの製品はその後トミーに受け継がれ、海外のピアレス、続いてエアフィックスやイタレリ(提携先のテスターも含む)に移り、21世紀に入った現在でも現役の精密キットとして販売され続けています。
本当に「まったく売れない製品」だったら、こんなことにはなりませんよネ!(笑)
―――― 少年時代から親しみ、その精密さや組み立ての“手強さ”から一目置いていたマックス製品でしたが、よく行く模型店のショーウィンドゥに飾られていていつも気になっていたのが、この“ブリッツバギー”でした。
アメリカでは1960年代よりサブカルチャー百花繚乱の時代に入り、レベルやモノグラムが独創的なセンスを持ったデザイナーに依頼してユニークなディフォルメキット(実在する航空機や車輌をモチーフにして、模型としての精密感を損なうことなく、コミカルなディフォルメを施したモデル)を発売していましたが、ブリッツバギーの完成品はそれらのオモシロ可笑しい複葉機やホット・ロッドカーと並んでチョコンと置かれていました。
その楽しげな雰囲気に魅せられてしまい、お店に行くたびにショーウィンドゥを覗き込んでいたものですが……まったく残念なことに、各社に受け継がれて長寿を誇ったマックス製品の中で、このブリッツバギーはもっとも短命に終わり、後になって手に入れることが大変困難になってしまったキットでした。
一時期、オオタキがこのキットに附属していたアクセサリー、ジオラマベースとフィギュアを省略して、車体だけを「1/40スケール フォードGP」として発売したことがありましたが、このキット本来の楽しさは失われてしまった内容で、またこの後に金型が破損してしまい、再販が不可能になった……という噂を聞いたこともあります。
これはあくまでウワサですから実際の処はわかりませんが……今のところ、もう何処からも再販される見込みのない幻のキットになってしまったことは確かなようです。
※フォードGPの実車記録写真
―――― さて、マックスが「カートゥーンシリーズ」として発売したフォードGP “ブリッツバギー”とは……おっとっと、僕がエラソウにウンチクを書くより、ここは“ガミガミ軍曹”と“マックス一等兵”に説明してもらいましょう!
どうです、楽しいでしょ!(^^)
このキットのデザイン・監修を担当されたのは、戦後の日本アニメーション黎明期から第一線で活躍して数々の名作を手がけた、まさに日本アニメの育ての親である作画監督、大塚 康生さんです。
僕らは心からの尊敬と親しみを込めて大塚先生と呼ばせていただいていますが、ミリタリーモデル愛好家の方ならば、大塚先生が世界的に有名なジープを筆頭とする軍用車輌の研究者であることはご存じでしょう。
大塚先生のお宅に遊びにうかがうと、ジープや模型のお話が尽きず、ついつい長居をしてしまいます。
大塚先生のお話をうかがっていると、マックスのブリッツバギーのキットには、大塚先生のお人柄がそのまま出ているなぁ!と感じます。
実車についての知識と愛情、そしてプラモデルというものの楽しさを多くの人々に知ってもらいたいという気持ち……ガミガミ軍曹とマックス一等兵は組み立て説明書の全編に現れて、このキットを今まさに作っているユーザーを助けてくれますが、こんなコーディネイトも大塚先生ならではのセンスでしょう。
このブリッツバギーは、実車の全長をキュッ!と縮めて、やや大きく幅広のタイヤを履かせたディフォルメ・モデルですが……細部をつぶさに観察すると、その驚くべき“こだわり”が見えてきます。
シャシーは左右分割のもので、その間にデフを挟むようにして接着。
その上にエンジンとトランスファーケースを載せるという、まるで実車の製造工程を思わせる部品分割となっていて、メカニックの楽しさを堪能できるようになっています。
もちろん組み立て説明書は丁寧なので、工作で迷う部分はありません。
タイヤには“DUNLOP”の銘柄が!
当時、精密キットを謳い文句にしている製品でも、ここまでやっているキットは少なかったと思います。
そして、繊細なラジエーターグリル。
当時の金型技術としては限界ではないかと思える細さで、実車の華奢なイメージをよく伝えています。
楽しいアクセサリー類。
フォードGPの登場時期に合わせて、ちゃんと初期型になっている1/4トン カーゴトレーラと、それに積むジェリカン、シュラフ……。
もちろん、ガミガミ軍曹とマックス一等兵のフィギュアも入っていて、パッケージイラストと同じポーズで仕上げることができます。
ひときわ大きい長方形の部品は、ジオラマベース。
完成したフォードGPをスタンド部品で浮かせることにより、車体をピョン!と浮かせながら悪路を疾走するパッケージイラストの雰囲気をそのまま再現できる、嬉しいオマケです。
―――― よく言われるように、このキットの登場は、たしかに「早すぎた」のかも知れません。
先に書いたように、アメリカでは1960年代からこのように実在のメカをディフォルメしたキットが数多く発売され、それを楽しむ地盤も形成されていましたが、1970年代前半の日本ではまだまだそんな余裕が無い……当時の日本のモデラーは、ようやく世界に誇れる精密感を再現できるようになった各種国産キットのクォリティの虜となって「とにかくボルト一本の大きさに至るまで実物を忠実に再現してほしい」と、精密感と正確さの追求に躍起になっていて、このフォードGPのようなコミカルなキットを自分なりの工作、自分なりの塗装でユッタリ楽しむような気持ちの余裕を持てるモデラーは、本当に、驚くほど本当に少数派だったのです。
こういったディフォルメキットが日本に定着するのは、1980年代にハセガワが発売した「たまごヒコーキ」シリーズの登場まで待たねばならないように思います。
マックスのキットには、時折 次回発売製品の広告を兼ねたリーフレットが同梱されおり、裏面にはエンドユーザーからマックスに寄せられた“ファンレター”の一部が紹介されていました。
また、このブリッツバギーの製品化についての解説や、発売予定キットのイメージ画とも思えるイラストが添えられていることもありました。
これはそのひとつで、第二次大戦中にイギリス軍が北アフリカ戦線で運用したM3グラント中戦車と、いかにもイギリス人といった風情の戦車兵がコミカルに描かれています。
車体側面のハッチに、当時驚異的な破壊力を持つとして恐れられていたドイツ軍の「88ミリ砲」の砲弾がめり込んでいるのがご愛敬です。
この他にも、ドイツ軍の有名な急降下爆撃機“スツーカ”を描いた楽しいイラストもありました。
恐らくほとんどのものは大塚康生先生がお描きになったものでしょう。
もしかしたら大塚先生の後輩に当たる宮崎駿監督がお描きになったものも混じっていたかも知れません。
これらのイラストが、そのままのテイストでキット化されたら、どんなに楽しかったことでしょう。
21世紀の今だったら、ちょっとしたブームになっていたかも知れません。
しかし、残念ながらそれらのキットが発売されることはなく、マックスの「カートゥーンシリーズ」はこのフォードGPブリッツバギー単品で終わってしまいました。
やはり、当時としてはセンスが先進的すぎたのでしょう。
本当に残念です。
―――― 大塚康生先生のプラモデルへの愛情、そしてセンスを世に知らしめる製品も、このフォードGPの絶版で途絶えたかに思えましたが……意外なフィールドで再び開花し、長きにわたって注目を浴びることになります。
1985年。
タミヤのミニ四駆「ワイルドウィリスJr.」の登場です。
大塚先生がウィリスMC(M38)ジープを元にデザインしたものです。
このキットはよく観察すると、マックスのフォードGPと同じ“薫り”を感じて楽しむ事が出来ます。
スケール表示は他のミニ四駆製品と合わせて1/32となっていますが、計測してみると、車体の全長を1/32クラスに縮めてあるだけで、車幅も、車高も、そして主要部品や各部のディテール(彫刻再現)も正確な1/24スケールにまとめられていて、その精度はスケールモデルとしての鑑賞に耐えるほどです!
子供向けだからと言って手を抜かない。
メカの楽しさ、本物の魅力はキッチリ伝える。
過度な部品分割はせず、誰もが手軽に楽しく作ることができる……。
「ワイルドウィリスJr.」は、マックスのフォードGPの正統な後継者といってもよいでしょう。
2013年、大塚康生 先生はタスカから発売される1/24スケールの「バンタムBRC」に全面協力されています。
ジープの始祖として歴史に名を残す名車バンタムBRCを1/24で再現するという、世界初のプロジェクトです。
精密感を保ちながら、出来る限り作りやすく、親しみやすいキット内容に……と、大塚先生はキット設計スタッフの皆さんに注文を出されたそうです。
あまりにも細かい部品分割、作りやすさを犠牲にした精密感の追求……そういったトレンドがエスカレートしつつあるように感じる今、プラモデルの本来の楽しさって何だろう?
マックスのフォードGPの部品を眺めていると、そんなことを考えてしまいます。
(注:2013年5月の静岡ホビーショーで「有限会社タスカモデリズモ」は「アスカモデル」と社名変更することが発表されました)
バンダイ (日本) 1/24 ウィリスジープ (1970年) [AFVモデル]
※旧 今井科学 1968年製
BANDAI 1/24 WILLYS JEEP (1970) ※ORIGINAL IMAI KAGAKU 1968 Release.
第二次大戦中に登場して全戦線で勇名を馳せたウィリスMBジープの1/24モーターライズキットです。
元々は今井科学が1960年代末に発売したものですが、ほどなくバンタイが販売元となりしばらく店頭で見かけたので、このバンダイ版に見覚えのある方のほうが多いかも知れません。
箱絵は「空挺作戦前夜」といったところでしょうか。
空挺隊員と彼らを運ぶ輸送機のパイロットがジープの傍らで打ち合わせ中の様子が描かれています。
これは小松崎 茂 画伯の手によるもので、今井科学から発売されていたときはジープと人物のみが切り抜かれたレイアウトになっていましたが、バンダイ版ではモノクロのM60中戦車と155ミリカノン砲が背景に合成されました。
M60も155ミリ砲も今井科学が1/24スケールで発売していたので、その関係もあったのではないでしょうか。
キット内容は当時としては標準的なもので、ランナー配置を見てもそのまとまりの良さがうかがえます。
1/24でモーターライズ走行させるため、モーターは車内に、そして電池ボックスはジープの相棒として有名な1/4トンカーゴトレーラに載せて、ジープ本体のプロポーションが電池ボックスによって著しく損なわれるのを防いでいます。
カーゴトレーラ上の電池ボックスは大型の弾薬箱のような箱で覆い、カモフラージュされます。
また、弾薬箱だけでは寂しいと感じたのでしょうか、畳んだテントとバッグがアクセサリーとして含まれているのが微笑ましく感じられます。
そのうえ、このカーゴトレーラは配線でジープ本体とつながるにも関わらず、取り外し可能なように設計されています。
また、カーゴトレーラは単体で自立するように、スタンドがスプリングを使って折り畳み可動になっているのも気が効いています。
走行のためのギヤはちゃんとデフの中に収められ、ドライブシャフトを介して後輪を駆動させます。
前輪はステアリングが効くようになっているので、残念ながら実車と同じ四輪駆動のギミックは無理だったようですが、このキットの原体験を持つ方々にお話をうかがうと、予想していたよりも走行性能は良かったようです。
作るとなかなか楽しいキットに思えますが……待てよ、このキット、本当に1/24スケールなんだろうか?
昔のキットは箱に書かれたスケール表示と実際のスケールが違うことが多々あります。
簡単に検証してみることにしましょう。
ハセガワの1/24スケール「ジープ ウィリスMB」。
2003年に発売された、現時点では最も新しい1/24スケールのウィリスジープのモデルです。
近年のプラモデルは目の肥えたマニアのニーズに応えて基本的な寸法等はできるだけ正確に再現されているので、ハセガワのジープの内容を信用して比較してみました。
ハセガワのジープはタミヤ1/35(MMシリーズ新設計版)と同じくボディの主要部品とフロントグリルが一体成形となっているので、比較対象としてはもってこいです。
左上のシャシーフレーム部品とランナーでつながっているのがバンダイ(旧 今井科学)1/24。
右下がハセガワ1/24。
……基本的な寸法はほとんど同じで、不自然なほど寸法や角度が違う部分は見あたりません。
自動車の模型ではそのイメージを左右する重要な要素であるタイヤも比較してみました。
左の中央にランナーが付いているのがハセガワ1/24。
右がバンダイ(旧 今井科学)1/24。
直径も幅も厚みも、驚くほど合致しています。
これを見る限り、今井科学は1960年代末という時期に相当マジメにジープを1/24で模型化したことがわかります。
ただ、残念なのは……「顔」です。
ジープ好きの人間がいちばん気にするポイントのひとつが、顔……フロントグリルの出来映えです。
今井科学のジープは、同時期の各国産メーカー品によく見られるように、ジープのフロントグリルの特徴をつかみ取れず、ずいぶんとコミカルな顔立ちになってしまいました。
恐らく、大戦型のウィリスMBと戦後に登場したウィリスMC・M38の特徴が混ざってしまったのでしょう。
ここが実車に似ていたならば、かなり高い支持を得ることの出来るキットになったのではないでしょうか。
実は車体各部にもウィリスMBとM38の特徴が混在しています。
(第二次大戦型・ウィリスMBジープ)
(戦後に登場したウィリスMCジープ・M38)
……とは言え、ジープの型式・年式による細部の違いを詳しく解説した資料はなかなか手に入らなかった時代の製品ですし、この当時はゼンマイ動力で走る1/24ジープのキットはあっても、モーターライズの1/24キットは珍しい部類に入りました。
これだけでも今井科学の意気込みが伝わってきます。
現在では超精密なディスプレイキットが主流となり、モーターライズで走行するスケールモデルは極少数派になってしまいましたが……オトナの手のひらに乗るサイズのウィリスジープがテーブルの上をすぃーっと走る光景を想像すると……なんだかワクワクしませんか?
ハセガワ1/24ジープの細部部品を流用したりモールドを移植して仕上げれば「実車のようなスタイルのウィリスジープがモーターライズで走る」様子を楽しめる……そんなディテールアップをしてみるか??
それとも「昔はこんな面白いキットがあったんだなァ」と往時を偲んで完全にキットの内容そのままで作って楽しむか??
うぅむ……とても悩ましいキットです(笑)