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タミヤ(日本)1/35 フランス陸軍32トン中戦車 A.M.X.30ナポレオン (1966年初版) [AFVモデル]

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TAMIYA1/35 French A.M.X.30 Napoleon


“ナポレオン”というのは“ロンメル”や“シャイアン”と同じくタミヤ独自の製品名で、実車に固有のコードネームはありません。
現在でこそ1/35戦車プラモといえば第二次大戦中のドイツ軍ものが大人気ですが、1960年代後半のプラモデル・シーンはまだまだそんな状況にはなく、面白いもの、カッコイイものなら何でもキット化してみよう!という気概があったようです。


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このA.M.X.30もけっこう人気のある戦車だったらしく、1/35スケールでは同じ頃に日模も「A.M.X.30フランス」という製品名で発売していますし、デッカイ金属製61式戦車(STA-4)などで有名だったアイハラも1/35でA.M.X.30を出していたようです。
画像は上がタミヤ、左がクラウンモデルの輸出版(米国A.H.M社扱い)右がニチモの「フランス」です。

ヨーロッパから遠く離れた日本のプラモデルメーカーで相次いで発売されたA.M.X.30ですが、フランス本国の老舗プラモデルメーカー、エレールから発売されたのが一番遅くてタミヤのキットとは10年以上の開きがあります。
でも、この“ナポレオン”が懐かしいというベテランさんも多いのではないでしょうか。



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僕の世代では、田舎に住んでいたこともあって中学生くらいまで田宮の古いキット……モーターライズのM8グレイハウンドやT-10スターリン戦車などの売れ残りを買うことが出来ましたが、ナポレオン戦車は模型屋さんのショーウィンドに飾ってある完成品を眺めたことがある程度でした。
当時まだまだ手に入った田宮の古いキットの組み立て説明書に掲載されているミニカタログには、時折このナポレオン戦車が掲載されていることもあり、いつかは自分で作ってみたいと思ったものです。



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なかなか豪華なパッケージです。
箱の折り込み部分にもカラフルな印刷で様々な解説、キットの仕様、カタログが載せられています。


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これが「クィック配線」仕様のシャシー。
製品の段階で電池ボックスの接点が組み立て済みでユーザーの負担を軽減しています。


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懐かしいゴムキャタピラと金属製ギヤボックス。
実際に組み立ててみると、作り手の微調整の仕方にもよるのでしょうが、ことのほか静かで心地よい走行音を発しながら滑るように走ります。


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昔のキットではお馴染み……赤外線サーチライトには半透明、赤いプラスチック板が部品としてセットされています。
赤外線となれば「とりあえず赤にしとこう」ということで、こういう部品を付けてしまうというのは、やはり「コタツ」が一般家庭どこにでもあるという風土を持つ日本ならではの発想、文化ではないでしょうか。
主砲防盾のダストカバーには、薄い布を実際に貼り付けて再現するように、寸法どおりに切り出した布の部品が付いてます。
今風に言えばマルチマテリアルキットといったところでしょうか。


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A.M.X.30は実車が登場したとき、その筋のジャーナリストから「いかにもフランス的な流麗なスタイル」と評されたそうですが、タミヤのナポレオンは当時の金型技術で、この複雑で美しい三次曲面を一所懸命に再現しようとしています。
こうして見ると、確かに綺麗です。
当時のキットですから、寸法云々……など、そのような細かい検証は避けますが、それでもかなり印象の良い内容です。
このキット、他の後発タミヤ戦車プラモデルと比べて内容が古いためか一度も再販されておらず、完全に消滅してしまっております。まったく残念!


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せっかくですからニチモ1/35「フランス」と比較してみました。
砲塔のデッサンなどに似た部分はありますが、恐らく実車の資料も少なかったであろう設計条件のなか、両社で独自の解釈をおこなっており興味深いものがあります。こうした同じアイテムでもメーカーによるアレンジの違いというのは大切にして、塗装バリエーションで作り比べてみたくなります。



―――― この時代の戦車プラモデルは、あまり細かいディテールアップなどはせずにキットの素性を生かして作ってみたくなります。
とくにこのナポレオンは流麗なフォルムが評判でしたから、その立体造形物としての魅力を味わいたいと思い、一個作ってみることにしました。


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基本的にはストレート組みです。
デカールはさすがに劣化していて使用不能だったので、フォトショップでそれらしい図柄で自作したものや他キットからの流用品を使ってみました。



さて、世にも珍しいツーショットをご覧ください!
お友達のT.M.さんからエレール製1/35キットを丁寧にストレート組みした完成品をお借りして記念撮影してみました。
日本の老舗の手による古典キットとフランス本国メーカー品とのコラボレーションです!

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T.M.さんの素晴らしい模型博物館サイト「T.M.FACTORY」はこちら!
http://park.geocities.jp/tmfc2007/
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モノグラム(アメリカ)1/35 パーソナルキャリアM3A1 (1958年初版) [AFVモデル]

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MONOGRAM 1/35 PERSONALCARRIER M3A1 HALF TRACK

半分トラック、半分戦車のような特異な形態を持つ「ハーフトラック」という車種は、装輪車(タイヤ走行式車両)の高性能化、装軌車両(キャタピラ走行式車両)の信頼性向上にともなって1940年代を最後に消えていった車種ですが、第二次大戦中には米・独両国がそれぞれ独自に開発したハーフトラックを装甲兵員輸送車として大量に使用しており、部隊の花形でもありました。

モノグラムはパーソナルキャリア(兵員輸送車)とMGMC(マルチプルガンモーターキャリッジ・自走多連装対空機関銃)の2種類のハーフトラックを発売しましたが、1958年という初版登場時期を考えると恐らく世界最古のハーフトラックの本格的組み立てキットだったのではないかと思います。
1950年代にはレベルとスナップが1/40スケールで、レンウォールが1/32であれほど豊富に米軍車両キットを発売したにも関わらずハーフトラックには手を付けませんでしたし、他社からも競合スケールでは発売されなかったので、タミヤがMMシリーズとして1975年に精密なキットをリリースするまでは唯一のハーフトラックの本格的1/35ディスプレイキットでした。
その後何度もパッケージを変えて再版されているので、手にしたことのある方も多いかと思います。
極初期のタミヤ「パチッ特集号」にも、このキットを使ったプラモデル情景写真がときおり登場しています。

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このキット、一応M3A1ハーフトラックという製品名にはなっていますが、現代の目で見ると随分と変わった車種だということがわかります。
組み立て説明書表紙の完成品見本で、このキットの独特のスタイルが確認できます。

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まずフェンダー。米軍が多用したオートカーまたはホワイト、ダイヤモンドTの各社が製造したM3A1ハーフトラックがクラシックカーを思わせる三次曲面彎曲型のフェンダーを持つのに対して、このキットは英連邦軍で多用されたインターナショナルハーベスター製M5A1またはM9A1ハーフトラックと同じ平面彎曲型のフェンダーを持っています。
ところが車体のサイドパネルとリアパネルの接合部がM5A1またはM9A1では曲面仕上げなのに対して、キットではM3A1と同じ直角仕上げで表現されています。
またヘッドライトガードが戦後にイスラエル軍が中古車両を補修して仕上げたような不思議な形状になっています。
車内も、運転席と兵員室がバルクヘッドで仕切られるなど、どの量産型にも見られない特徴を持っています。

下は米軍が第二次大戦中に作成した実車のT.M(テクニカルマニュアル・取扱説明書)記載の実車記録写真です。

米軍に大量配備されたM3A1ハーフトラック
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英連邦軍に多数貸与されたM5A1ハーフトラック
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……いったい何故このような「架空の車種」ともいえるハーフトラックを模型化したのか、今となっては理由がわかりませんが、もしかすると米軍から放出されたM3A1ハーフトラックとM5A1ハーフトラックのT.Mをキット開発の参考資料とした際に誤って両車の特徴が混濁してしまい、不明な部分は想像で造型してしまったのか、あるいは戦後よく見られた「手に入る部品をあれこれ組み合わせてデッチ上げてしまった」ような、考証的に誤りのある復元車両の取材を基に模型化してしまったのかも知れません。
いずれにせよ、たいへんミステリアスな車体です。




―――― モノグラムのハーフトラックとは、実に変則的な出会いをしてしまったのが思い出として残っています。

高校2年の頃、老舗の模型店で売れ残ってホコリを被っていた日東科学製の「バトル」というプラモデルを発見しました。

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クラシカルなタッチの箱絵が気になって内容を確認してみると、なんとモーターライズで走行するハーフトラックのキットでした。
しかも、箱にはまったくスケール表示がないものの部品の大きさに馴染みがあります。
これは……と思い立って模型店の棚に積まれていたタミヤ1/35のM3A2ハーフトラックを持ってきてバトルと比べてみると、なんとまぁほとんどタミヤのキットの部品と同じ大きさ、つまり1/35なわけです。

モーターライズで走る1/35のハーフトラック!これは面白い!……ということで買って帰り、高校の文化祭に出品するために撮っていた8ミリ特撮映画の撮影用ミニチュアとして使いました。
ボール紙で作った街並みの中をタミヤ1/35の61式戦車と一緒に元気に走ってくれたのをよく覚えています。


その翌年、今度は輸入品を扱っている模型店に顔を出して、モノグラムのハーフトラックを見つけました。
当時は完成品写真をパッケージに使った版が売られていたので、輸入品特有のシュリンクパックになっていても内容がすぐに理解できたのですが、つい1年前に作った日東科学のバトルとそっくりのスタイルにびっくり仰天しました。

ここでようやく、日東科学は古いモノグラムのハーフトラックを模倣してモーターライズ化したものを製品化したのだということに気づいたのでした。



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21世紀の現代では、ベテランの域に達したタミヤのキットに加えてドラゴンモデルズも1/35で米軍ハーフトラック各種をリリースしており、需要は満たされた感はありますが、そういった精密な現代的センスのキットが出揃った今になってモノグラムのキットを手に取るというのも温故知新的な面白さがあります。

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再販が繰り返し行われたといっても、最終版ですらかなり昔のことになってしまうので、どの版のキットを買っても古い輸入キットではお馴染みの「部品がランナーから外れて箱の中でザラザラいってる」という状況になっていることが多いですが……。

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なにしろ、このシンプルさです。
部品を拾い上げて説明書で軽く確認すれば、組み立てで間違えることはまずありません。
ドアも開閉する楽しいキットです。

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モノグラムは1950年代からアクセサリーに気を使っています。
乗車している兵士たち、車外で戦闘中の兵士たち。そして車体側面に自由にレイアウトできるフィールドバックパックなどが豊富にセットされています。
さすがに前時代的な出来映えですが、米国の著名なモデラー シェパード・ペイン氏がこのフィギュアやアクセサリーを見事にアレンジしてディオラマに使っていたのを思い出すと、丁寧に整形、塗装して使ってみようかなあという気分になります。



せっかくですから、日東科学のキットもご紹介しましょう。

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日東科学「パーソネルキャリア バトル」です。
初版はモノグラムに遅れること約10年の1967年です。


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日東はバトルに先立って対空機関銃装備ハーフトラック「ビクトリー」も発売していますが、こちらもモノグラムの「アーマードハーフトラックM16」を手本にしてモーターライズキットに仕立てたものです。

ただし面白いのは、モノグラムのアーマードハーフトラックが実際には商品名と違ってマクソン社製の50口径機関銃2連装M33機関銃架を装備したM13(またはM14)を模型化しているのに対して(実車との相違はパーソナルキャリアのキットと同じです)日東科学のビクトリーは50口径機関銃4連装のM45機関銃架を装備したM16(またはM17)に改変してある点で、ただし箱絵には誤ってモノグラムと同じ2連装M33機関銃架が描かれているので、この大きな違いに気づく人は案外少なかったようです。

他の日東科学1/35ミリタリーモデルが後にパッケージを変えて再版されたのに対して、このハーフトラック2種が再版されることはなく、金型ごと売却されたのか後になって台湾のブルータンク社から発売されています。
ブルータンク版ではモーターライズ機構が廃止され、他の製品から流用したと思われる見慣れない造作の軟質樹脂製キャタピラが付属しています。


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モーターライズ機構を備えたことによって部品構成はモノグラムと異なる部分も多く、後部転輪がモノグラムの一体成形部品ではなく、個別に回転するようになっており、ドアの開閉は省略されています。
また兵員室内部は電池ボックスで埋まってしまうのにともなってディテールが省略されてしまいました。

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走行機構のためのギヤボックスとゴム製キャタピラ。
スィッチなどを見てもやや脆弱な感じがしますが、実際に作ってみると接触不良によるエンコなどもなく、快調に走ってくれたのをはっきりと覚えています。

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モノグラムのハーフトラックでは、ブローニング50口径機関銃の弾倉が省略されていましたが、日東のバトルではカマボコ型をした200発入りラウンドドラムマガジン(弾倉)らしき部品を接着するようになっています。
なんとも不思議な部分に気を利かせたものだなぁと思います。



―――― モノグラムのハーフトラック2種は、この日東科学「バトル」および「ビクトリー」をはじめとして、同じく日東科学1/76、エアフィックス1/76、その他多くのダイキャストモデルや玩具に多大な影響を与えました。

レベルの1/40シャーマン戦車にせよ、このハーフトラックにせよ、1950年代のアメリカ製プラモデルには「偉大なるご先祖様」と言えそうなキットがいっぱいあります。
ボチボチとこんなことを調べつつ古いキットを丁寧に作るというのも考古学的な楽しみが味わえて、プラモデルの楽しみ方のひとつのような気がしています。

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日東科学(日本)1/35 M8A1 トラクターカーゴ (1968年初版) [AFVモデル]

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NITTO1/35 Allis-Chalmers M8A1 Artillery Tractor Cargo

M8は1950年代末頃に登場した、牽引式火砲時代の最後の世代にあたる砲兵用トラクタです。
陸上自衛隊でも長らく現役にあり、1960年代には高射特科連隊の主要装備として90ミリまたは75ミリ自動高射砲などの牽引に活躍していたようですが、今ではもう見ることの出来ない古典メカとなってしまいました。
とはいえ重厚かつ複雑なスタイルが非常に模型映えのする、魅力的なアイテムです。

1960年代に発売された他の日東科学1/35ミリタリーキット同様、このM8A1も発売後15年あまりを経て1980年代に真っ白い背景に車体だけが描かれた端正なパッケージに身を包んだ精密ディスプレイキットとして再販され、僕はそのときに買った世代です。
最初は物珍しさから、そして次には自衛隊でも運用されていたということもあって自主製作8ミリ特撮映画用のミニチュアモデルとして作ったこともあり、個人的にはかなりお馴染みの品でした。


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高級感漂う初版のパッケージ。
横長で、よく店頭で見かける戦艦のプラモデルのような大きさと風格があります。
中には溢れんばかりに部品が詰まっており、厚紙で区分けされた一体成形キャビン部分や袋詰めされた駆動系の金属部品が高級感を演出しています。


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当時の模型誌に掲載されていた広告です。
力の入った目玉商品としてこのM8をリリースした日東科学の心意気がうかがえます。


……そんな日東のスピリッツとは裏腹に、僕のこのキットの第一印象は、とにかく「作りにくいプラモデルだなぁ!」というものでした。
1980年代の版にはモーターライズ機構はありませんでしたが、それでも運転席ドアを除く各ハッチが開閉、サスペンション可動、ドーザーブレード可動、後部砲弾積み卸し用リフト可動というアクションモデルで、バリの多い部品をひとつひとつ成形して綺麗に動くように組み立てていくのはずいぶんと骨の折れる仕事でした。


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組み立て説明書記載の部品図。
どうです、1960年代当時の国産1/35モーターライズ走行キットとしては破格の部品点数だと思いませんか??
可動部満載のキットであり、そして当時としても珍しい精密キットです。


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せっかくですから実車解説も詳しく読んでみましょう。
第二次大戦末期から使用……という歴史的な部分のリサーチには残念ながら誤りがありますが、「転輪のボルトは黄色く塗られているが、自衛隊の方のお話では……」といった現地取材を思わせる記述が印象的です。
また他のページには実車の細部写真も随所に掲載され「これは実物の緻密な取材によって作られたキットです」ということを主張する、ニットーの本格精密スケールモデルを世に問うたという自信が見て取れます。
この時代、国産キットは欧米製のキットをかなり参考にしたものや明かなコピー製品も見受けられたわけですが、このM8A1は純粋に日東科学オリジナル製品です。

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これ以前にオーロラも1/48でM8トラクタを発売しており、昔作ったことがあるのですが、もしや……と思い改めて内容を比較検討しましたが、まったくの別物で、日東のキットにはオーロラ製品を参考にした形跡はありませんでした。



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ただし……付属のフィギュアは海外メーカー品の複製物です。
これがまたオールスター・キャストで、レベル1/40、スナップ1/40、モノグラム1/35の各社各キットのものがランナー内に散りばめられていて、オリジナルを知っている人なら思わず吹き出してしまいそうな状態です。
他の項でも書きましたが、やはりフィギュアというのはスケール相応のプロポーションの良さや金型からの抜け具合を計算できる腕利きの彫像師、造型師に依頼して製作しなければならない厄介なもので、当時の国内メーカーはまだまだその方面が弱かったのでしょう。


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車体そのものは非常に優れた設計のキットです。
実車はM41ウォーカーブルドッグのコンポーネンツを利用して車体長を延ばして作られており、各部の部品もM41のものが多く使われているのですが、比較的近年になって発売されたAFVクラブ1/35のM41ウォーカーブルドッグの精密キットの部品などと比較しても、多くの主要部品の寸法がほぼ一致しており、当時としてはかなり正確に1/35スケールモデルとして設計されていることがわかります。

ただキャビン部分はギヤボックスを内蔵するスペースを確保するため実車より小さくアレンジされており、そうとう窮屈な印象です。
これらのパーツを通して「希代の精密キット」と謳うためのスケール感と当時のユーザーの嗜好としては必須事項であったモーターライズ機構とのせめぎ合いに苦心する日東の設計陣の姿が見えるように感じました。


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ピアノ線スプリングをはめ込んで可動するサスペンション。
可動域が少ないので見た目にはたいして面白味はないのではないかと思ってしまいますが、実際に作って走らせてみると、転輪の個数が多いので案外リアルな挙動を見せてくれて感心します。
このM8A1は後になって台湾のブルータンク社からも再販されていますが、オリジナルの日東版ではサス可動のためのスプリングが左右で逆方向に巻かれていてきちんと車体パーツにはめ込まれるようになっているのに、ブルータンク版は生産工場でミステイクを犯したらしく、左右どちらか片方の巻き方のものしか入っていませんので注意が必要です。



―――― その昔、8ミリ映画の撮影に使おうと苦心惨憺して作ったM8ですが、2005年頃に米陸軍発行の実車のTM(テクニカルマニュアル・取り扱い説明書)を目にする機会に恵まれました。

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これを参考にすれば、今だったらもう少し綺麗に仕上げられるんじゃないかなぁ……そんなことを思い始め、久しぶりに作ってみた作品が手許にあります。お目汚しですが、笑覧頂ければと思います。

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先にも触れましたが近年の1/35スケールキットと部品の基本寸法が合致する部分も多く、この作品では細部部品の多くとキャタピラをAFVクラブ1/35のM41ウォーカーブルドッグのものと交換してあります。車体が延長されているのでキャタピラは都合3本必要で、調達に苦労しました。
また少しばかり体裁を変えてみようと、サンドシールド(サイドスカート)も自作してみました。
もちろん各部の可動機構とモーターライズ走行機能はすべて生かして作りましたので、スィッチを入れるとサスペンションを効かせながら机上をノンビリと走ってくれます。

戦車でもなく装甲車でもなく、かといって土木作業現場で働く建機でもなく……不思議なシルエットがお気に入りです。


別項でレンウォール往年の名作 1/32「75ミリ自動高射砲M51スカイスイーパー」を牽引させた状態もご紹介しています。
ぜひご覧ください。
http://vintageplamo.blog.so-net.ne.jp/2010-05-18-1
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日東科学(日本)1/35 アリゲーター L.V.T.(A)5 (1968年初版) [AFVモデル]

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NITTO1/35 L.V.T.(A)5 Alligator


フロリダの湿地帯などで輸送・救援に使おうと開発された水陸両用車を原型として造られた上陸作戦用の水陸両用装甲車両です。この主の車両の登場で、米海兵隊はよほどの断崖絶壁でない限り地球上のどのような地形でも大規模な上陸作戦を展開できるようになったと言われます。
兵員輸送型は水陸両用を意味する「アンフィビアン」そして装軌式(キャタピラ式)を意味する「トラック」を組み合わせた言葉遊び的なニックネームで“アムトラック”と呼ばれ、砲塔を載せた火力支援用はこれに準じて“アムタンク”と呼ばれました。
日東科学が製品化したL.V.T.(A)5は第二次大戦末期に活躍したL.V.T.(A)4を改良した戦後型アムタンクです。

初版の箱絵は平野光一画伯の手によるもので、上陸した海岸線で戦闘中のL.V.T.(A)5と海兵隊員が描かれている迫力ある作画ですが、L.V.T.(A)5実車の登場時期から見て朝鮮戦争時か戦後間もない頃の演習中の風景といったところでしょうか。


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僕がこのキットを初めて作ったのは1980年代に入ってからです。
タミヤMMシリーズを思わせる真っ白な背景に車体が描かれたパッケージの再販品を店頭で見かけ、これは珍しいキットだと思い喜んで買い求めました。



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箱を開けると、大柄の車体のわりには簡素な部品構成でまとめられており、ディスプレイキットして売られてはいるものの過去にはモーターライズ版があった形跡があり、しかもキャタピラが懐かしいゴム製だったので、そうとう古いキットの再版なのだということが一目で解りましたが、まさか1960年代のシロモノだとは思いませんでした。


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さて、古いモーターライズ版の部品構成と組み立て説明書を丹念に見てみると、もしかしてこれは水陸両用モーターライズ走行するのではないか?と期待してしまいます。
水に浮くことは浮くでしょうが、完全な防水処置への配慮が見あたらないため、キットのまま作っただけではお風呂に浮かべるのは諦めたほうがよさそうです。


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組み立て説明書には実車写真も掲載されており、現存する車体を取材してキットを設計したという雰囲気が漂います。


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これは数年前に友達と自衛隊 土浦武器学校を見学したときに撮ったもので、創設間もない頃に自衛隊が資材開発参考品として導入した車体です。
日東科学のキットとどんぴしゃりのL.V.T.(A)5です。写真の雰囲気からも、日東はここで取材をしたことがわかります。


―――― 日東科学の1/35ミリタリーモデルは、後にはケッテンクラートでタミヤとバッティングしてしまいますが、初期の頃には他社が目を付けないユニークなアイテムを率先してリリースしていたように思います。
ただ、先発キットの米軍ハーフトラックがモノグラム製を手本にしていたように、もしかしたらこのアリゲーターも海外製品を参考にしたものなのか?という疑問も湧いてきます。

この当時、参考になりそうなキットと言えばこれしかありません。
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アダムズが1958年に発売し、その後スナップ、ライフライクと受け継がれた1/40スケールキットです。
商品名はL.V.T.(A)(4)となっており(注:キットの表示ママ)絵本から採られた“WINNIE the WHALE”(鯨のウィニー)というニックネームが付いています。
実際には日東と同じ戦後型のL.V.T.(A)5です。アダムズが実車取材したのも1950年代でしょうから、この型になってしまったということでしょう。

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キット内容を比較してみると、確かに大筋の部分で日東はアダムズのWINNIE the WHALEを参考にはしているでしょうが、設計は自社でやり直してきちんと1/35スケールに改め、モーターライズ機構とスケール性を両立させようと気配りしているのがわかります。
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ただし、専門の腕の立つ彫像師に依頼しなければならないフィギュアまでは手が回らなかったらしく、あっさりとアダムズのWINNIE the WHALEのキット付属のものを複製して済ませています。
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こういった部分に手をかけていれば、もっと高い評価をもらえた品ではないかと思います。
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……現在ではイタレリが1/35でL.V.T.シリーズを豊富に発売していますが、第二次大戦後に運用されて朝鮮戦争などでも使われたL.V.T.(A)5の1/35キットは現在に於いても日東科学製が唯一の存在です。
後になって台湾のブルータンク社に金型が移ったらしく、その際の再販品は今でも手に入りますので、コレクションに加えておいても悪くないかも知れません。


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モノグラム(アメリカ)1/35 イーガービーバー2.1/2トントラック (1957年初版) [AFVモデル]

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MONOGRAM1/35 2.1/2ton Truck Eager Beaver

“イーガービーバー”とは「働き者のビーバー」という意味で、第二次大戦から米軍の戦術輸送の主力として大量に使用された2.1/2トントラックの愛称です。
通常は2.1/2トンを表す“Deuce and a haif” ジュースアンダハーフと呼ばれていました。

ちなみに米軍トラックの「トン数」の規格は「その重さまでの荷物を積んでも、戦車と同じクロスカントリーが走れますよ」という意味だそうで、このイーガービーバーも2トン半までの荷物を積んでいても過酷な不整地を戦車部隊に随伴して走破できます。
一般的な道路ならばその2倍は積んでも大丈夫とのことで、米軍の2.1/2トントラックは日本の民間型トラックの感覚で言えば5トントラックということになります。

……地味な存在ではあるけれど、今も昔もトラックは重要な兵器システムであり、モノグラムは1950年代から軍隊の象徴としての戦術輸送トラックを抜かりなく模型化しています。


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2000年に入って台湾のAFVクラブが名作キットM35A2トラックを発売して軍用車両ファンを喜ばせましたが、AFVクラブのM35A2が主に1970年代からカイザージープ社が生産した10輪型(後2軸ダブル)であるのに対して、モノグラムのイーガービーバーはそれ以前にレオ社が生産していた6輪型(後2軸シングル)で、カーゴボディの形状をはじめとして各部に違いがあるため、50余年前にリリースされた骨董品とはいえ、軍用車両ファンにとってコレクションアイテムとしての魅力はいまだに曇りません。



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ちなみにM34トラックは『バルジ大作戦』『パットン大戦車軍団』などなど、昔の戦争映画によく登場していました。たいていはグレイに塗られて第二次大戦中のドイツ軍車両の役でしたが、このキットを使うと昔の戦争映画の雰囲気のディオラマが作れるという楽しみかたもあります。



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1980年代に入って翻訳本が出版されたアメリカの有名モデラー シェパード・ペイン氏の名著 「How to Build Dioramas(ハゥトゥビルドディオラマ)」で、郵便物を運んできた米軍トラックの見事なディオラマが紹介されていましたが、あの作品に使われていたトラックがこのイーガービーバーで、国内メーカーが発売していた第二次大戦型トラックと明らかに違う車種だと気づいてからは、このトラックが欲しいなぁ!と思ったものでした。


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軍用トラックのキットというと複雑な足回りなど工作が大変厄介なものではないかと先入観を持ってしまいますが、モノグラム製品は昔から部品の一体成形化が進んでいて、このイーガービーバーもビックリするほど少ない部品で構成されています。
僕は過去に3台ばかり作った経験がありますが、組み立てるだけなら1時間で終わってしまうほどです。


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1970年代以降は完成品見本写真箱に変わって長らく販売されていました。
その後モノグラムがレベル社の傘下に入ってからは映画『M★A★S★H(マッシュ)』のテレビ版のキャラクターモデルとして登場人物のフィギュアやディオラマベースを追加して売られたり、ジープとセット販売されたりしていましたので、今でも手に入れることが出来ますが……。


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ただ残念なのは、その後の再販品には初版に入っていたフィギュアが含まれていないという点です。
初版にはドライバー、無線手、トミーガンを持ってステップに足をかけた下士官、車外で戦闘するバズーカ砲チームとライフルマンのフィギュアが含まれていました。
特にステップに乗る下士官は他のキットに付いていない、イーガービーバーだけのボーナスパーツでした。


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1970年代のモノグラムのキットに付属していたミニカタログからの抜粋。

モノグラムといえばやはり航空機や自動車のキットがお馴染みで人気もありますが、AFVキットも魅力的で、現在の目で見ても貴重なアイテムがいくらか含まれています。
これら1950年代にモノグラムがリリースしたミリタリーモデルには詳しいスケール表示はありませんでしたが、後にはこのカタログにあるとおり1/35スケールであることが明記されました。
どのアイテムも販売期間が長かったこともあり、有り難いことに現在でもさほど苦労することになく入手することができますが、やはり初版の箱の味わいは捨てがたいものがあります。
モノグラムのミリタリーモデルは僕のお気に入りのシリーズです。
これからもドンドンご紹介していきたいと思っています。


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シズキョウ(日本)1/250   XM474E2ロケット戦車 (1964年) [AFVモデル]

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SIZUKYOU1/25 XM474E2 Pershing missile system


XM474というのはまたシズキョウらしいマニアックな製品名です。
これは有名なM113APC(装甲兵員輸送車)を改装してつくられたミサイル輸送車(キャリア)の名称で、背中に載せている主役……巨大なミサイルのほうは「MGM-31 パーシング」という中距離弾道ミサイルです。
「パーシングミサイル戦車」という名前を付けて売ったほうが消費者にはわかりやすいようにも思いますが、米軍の中戦車M26にもパーシングという名前が付いており、1960年代にはシズキョウを含む数社からパーシング戦車のプラモデルが発売されていましたから、差別化を図ったのかも知れません。
それでも一応、箱絵には小さく“Pershing”と書いてありますね!

核ミサイルの移動式発射システムという何とも恐ろしげな兵器のプラモデルですが、この当時は冷戦真っ直中! こういった兵器がよくマスコミにも採り上げられていたし、海外の製品にもミサイル系の玩具、組み立てキットが多く見られましたから、いわば「流行物」だったのかも知れません。国産キットにも「ミサイル戦車」がいっぱいありました。
シズキョウがこのキットを企画した意図には、他社のミサイル戦車プラモデルへの対抗心もあったのでしょう。
……このキットが発売されて40余年。この類のミサイルが実際の戦闘で使用されなかったのは本当に幸運でした。
そういう意味でも「冷戦時代の遺物」として興味深い品です。


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30年ほど前の模型誌のオールドキット紹介記事に掲載されているのを見て以来、気になっていたキットでした。
僕がプラモデルの趣味を本格的に始めたのは1972年前後ですが、その頃にはもう店頭でこういうキットを見つけるのは大変難しかったのです。


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さてこのキット、製品説明に大きな謝りがあります。
スケール表示が「1/250」になっているのです!これじゃあ戦艦のプラモデルのようですネ。
実際にはヒトケタ違いの1/25のようです。
ちなみに英語表記でXM474が軽量でクロスカントリー走行性能に優れた車体だということがさりげなく紹介されています。


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作って遊ぶワーキングモデルらしく、非常に丈夫な車体設計になっています。
車体上部の工具やラジエーターまでモールドされており、何枚かの実車写真を参考に模型化されたことがうかがえます。


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基本はシンプルなシングルモーターライズ走行キットです。
赤い帽子のようなものはミサイルの“弾頭”です。
実物のミサイル弾頭は危険極まりないものですが、このキットの弾頭は子供がケガをしないように柔らかいゴムで出来ていて、このキットの中でもっとも“安全”な部品となっています。


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搭載するミサイルは車体上部に載せたままか、あるいはドーリーごと降ろして牽引走行させることができます。
ミサイルランチャーが垂直にエレクトして、スプリングでミサイルを発射させることができますが、なぜかミサイルの前半部だけがビヨ~ンと飛んで後半部はランチャーに残ってしまいます。

……詳しく思い出せないのがチョット悔しいのですが、このキット、テレビの特撮番組の撮影用ミニチュアとして使われていたのを見た覚えがあります。
確か「ウルトラマン」のどれかの回だったか「スペクトルマン」だったか昔の映画の「ギララ」だったか……あれっ?プラモデルみたいのが走ってきた!と思った記憶があります(笑)
1/25サイズの製品なので特撮用ミニチュアセットとの相性が良かったのでしょう。

この頃のちょっと大きめの戦車プラモデルはときおり特撮映画、特撮番組の小道具に使われています。
お好きな方はDVDで画面をストップモーションにして探してみるのも楽しいかも知れません。

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MPC(アメリカ)1/25  WORLD WAR II JEEP (1972年初版) [AFVモデル]

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MPCは1960年代末頃から1/25スケールで各種のジープを熱心に発売していますが、これもそのひとつです。
何種類かのコンバーチブルキットになっているのがMPCキットの特徴ですが、これは105ミリ無反動砲を搭載したタイプをメインモデルとしています。
製品名では一応第二次大戦中に使われたウィリスMBジープという設定らしいですが、考証的な面で言えば朝鮮戦争が終わった頃に試作型105ミリ無反動砲M27を搭載して運用試験されていた車体と見たほうが良さそうです。

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ご覧のように逞しく強そうなシルエットは大変魅力的です。


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1970年代にジープ研究の大家・大塚康生 先生がホビージャパンなどに連載していたジープの模型についての記事には何度拝見してもワクワクさせられましたが、その記事で紹介されている1/25クラスの輸入品プラモデルは、普段1/35や1/76の小さい模型を作っていた少年にはとても豪華な製品に見えて、しかも当時住んでいた田舎ではまったく見かけない品ばかりだったので、一種憧れに近い存在になっていました。
そんなMPCのジープを手に入れたのは、なんと30代になってからです(笑)
我ながらよく辛抱したものです。


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まずはパッケージに印刷されているキットの仕様。
カラフルで楽しげな雰囲気です。
このあたりのパッケージングセンスにはスロットカーやアメリカン・マッスルカーのキットを数多く手がけたMPCらしさが溢れていて、ミリタリーヴィークルとは言え自動車モデルとしての側面からの楽しさを伝えようとしているように思えます。


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このようなキットですから、部品はきっとオリーブグリーンのプラ成形色だろう……と思って箱を開けると、純白の部品が大量に詰め込まれていて面食らいます。



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ひときわ大きいのは、バキュームフォーミング加工で作られた地面……ディオラマベースです。
タイヤの跡と足跡が綺麗にモールドされているので、草を生やしたりしてリアルに仕上げると良さそうです。



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ボディは主要部分が一体成形となっており、これなら組み立て時に歪むことがありません。
核となる丈夫な大型部品に細部パーツを取り付けていく安心感があります。


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エンジン、ラダーフレーム、サスペンションやデフが過不足なく再現されています。
ただしタイヤはコンバットタイヤではなく民間型ラジアルタイヤのようなものが入っています。


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オプションパーツ。
無線機もオマケに入っていて、パッケージのような無反動砲搭載型、はたまた武装無しの「コマンドタイプ」として作るか、50口径機関銃装備のガンジープが選べますが、50口径の装備方法はチョット無理矢理かなぁと思える部分があります。
無反動砲用のマウントは取り付けず、50口径のガンマウントをそのまま車体に取り付けたほうがリアリティが出そうですね。


……厳密に見ていくとウィリスMBと戦後に生産された民間仕様CJ2Aの特徴が混在している部分もありますが、それはそれで映画の撮影に使われる劇用車……レストア車両のような楽しさがあります。

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第二次大戦中に登場して広く活躍したウィリスMBジープ。


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戦後、民間向けに販売されたウィリスCJ2ジープ。

現在では1/24~1/20で正確・精密なジープのキットが手に入るので、それらの部品を流用・活用して自分なりに手を加えてみるか、持ち味を生かしてそのまま作るか……いろいろな楽しみ方ができそうです。




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さてMPCはWORLD WAR II JEEPの発売に先立って1968年に「Hogan's Heroes Jeep」という製品を発売しています。

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第二次大戦を舞台にしたアメリカのコメディテレビドラマ『0012捕虜収容所(Hogan's Heroes・1966ビングクロスビープロダクション)』(捕虜収容所の米兵たちが地下にレストランやサウナなどをつくってドイツ将校をおちょくりつつ優雅な暮らしを送っているというヘンテコなドラマ)のキャラクター商品として発売されたジープで、現在でも時折再販されているロングセラー商品です。
WORLD WAR II JEEPは、このキットから派生した製品のようです。


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こちらにも多彩なオプション部品が付属していて、第二次大戦型のウィリスMB/フォードGPWか、戦後の民間型CJ2Aをカスタマイズしたレジャージープを作ることが出来ます。

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フロントグリルは形状、プレス加工の雰囲気も含めてなかなか感じが良いので、丹念に作り込めば戦後の軍用型M38(ウィリスMC)を再現することも出来るでしょう。
一緒に写っているアクセサリーにも注目。
1/25のハンドウェポンですが、非常に繊細な出来で好感が持てます。

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民間向けウィリスCJ2を徹底的に改良して軍用仕様にしたウィリスMC (M38ジープ)。





―――― サテ、この試作型105 ミリ無反動砲を搭載したジープですが、いろいろと調べていたら、思わぬ写真を発見してしまいました。

ナント!この105ミリ無反動砲搭載型ジープ、大量に生産されたわけでもない試作車輌であるにも関わらず、なぜか初期の陸上自衛隊に貸与・配備されて、自衛隊が撮影に協力した東宝のSF特撮映画『地球防衛軍』の撮影現場に姿を現していたのです!

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これには驚きました。

こうなると猛然と製作意欲が燃え上がってしまい、2013年の静岡ホビーショー・合同展示会に出品しようと製作してみました。
お目ヨゴシですが、完成した姿をご笑覧ください。


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フロントグリルその他、使えそうな部品はハセガワ1/24のウィリスMBジープから流用しましたが、MPCキット特有のMBとCJ-2の特徴が混在している部分は、これはMPCの古いキットがベースなんだヨということを主張したくて、敢えてそのままにしておきました。
また、キットには附属していないガントラベリングロックを自作。
元々、完全なディスプレイキットで可動部分は一箇所も無いのですが、自作のガントラベリングロックと砲架部分に極小の金属製ヒンジを埋め込んで、無反動砲を上下可動に改造して楽しんでみました。
バキュームフォーミング成形されたディオラマベースも、少し手を加えて使ってみました。

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……今までにジープのキットは様々なスケールでいっぱい作ってきましたが、ミリタリーの主流スケールである1/35も楽しいものの、1/24~1/25スケールというのはオトナの手のひらに過不足無く収まる心地よい大きさに仕上がって楽しいですね!
このスケールの軍用車輌モデルが日本でも根付くことを願っています。


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オオタキ(日本) デストロイヤーT-92 (1964年) [AFVモデル]

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OTAKI T-92 Airborne Light Tank


T-92はC-130ハーキュリーズ輸送機による空輸、最前線への緊急展開を視野に入れた小型軽量かつ強力な武装を持つ新世代型戦車として1953年に開発されたものですが、あまりにも新機軸を盛り込みすぎて量産に向かず、試作のTナンバーが取れないまま博物館行きとなってしまった珍しい車体です。
その前衛的なスタイルが話題となったこともあり、アメリカの模型メーカーが商品化。その影響で日本国内のメーカーも各種の製品を発売することになりました。
そのひとつがこのオオタキのデストロイヤーです。
オオタキの箱絵にはガスマスクと暗視装置を顔面に装着してカービン銃を持つ兵士が描かれ、T-92のキャラクターに相応しい未来科学戦争絵巻が再現されているようです。


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ちなみに実車のT-92には固有のコードネームはありません。
デストロイヤーとは、実はタミヤが1963年にこのT-92を「ワールドタンクシリーズ」の中の一台として発売したときに付けた商品名で、オオタキは名前も造作もこのタミヤのデストロイヤーを参考にして、ふたまわりほど大きなキットとして設計したようです。

僕は以前、タミヤが1967年に「1/50ポケットミュージアムシリーズ」として発売したT-92デストロイヤーを作ったことがあり、もっと大きなT-92のプラモデルはないのかなと探していてこのオオタキ製キットを見つけました。


参考までに、博物館に展示されているT-92の実車写真を見つけましたので載せてみますと……
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……実際には、こんな感じの戦車です。

では、オオタキのデストロイヤーはどうでしょう?

オオタキの戦車といえば1979年になって発売された1/35タイガーI中期型が当時としては名作だったのでよく知られていますが、1960年代のオオタキ製AFVキットの持ち味は「独自のアレンジと男らしいしつらえ」……これに尽きると思います。

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このデストロイヤーも例外ではなく、資料不足でわからない部分はわからないなりに旺盛な想像力を発揮して「こんな具合でどうだ!」と力業でまとめてしまったかのような独特のプロポーションを持っています。
ちなみにこのキット、スケール表示はまったくありませんが、主砲などのパーツを観察してみると、どうも1/32スケール程度の大きさのようです。


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極めつけは架空の「ミサイル発射機構の導入」で、実車のT-92では12.7ミリ機関銃が装備されている小型銃塔に、オオタキのデストロイヤーではまるでエイハブ船長が白鯨に投げつける銛もかくやと思われる太く尖ったミサイルが装着されており、それがスプリングで発射できるようになっています。
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このようなアレンジのため、組み立て説明書に描かれた真正面からの「完成図」では、例えものすごく戦車に詳しい人であっても、何の補足説明もなしにこの絵を見せられたら、いったい何という戦車なのかわからないのではないかと思うほど男らしく我が道を行くアレンジが成された戦車プラモデルに仕上がっているのです。
もはや、オオタキがT-92を参考にしつつも独自に設計したオリジナルSF戦車といっても過言ではありません。

……しかし、1960年代中盤のことです。
実物を正確に再現しようにも資料が手に入らない、多少のスケール感は壊してでも何かしら遊べるギミックを加えておかなければ子供たちは買ってくれない……そんな当時の状況では、こういうキットが多かったのも無理のないことでしょう。


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パッケージにも大きく書かれている「強力ハイゼットモーター」によるシングルモーターライズ走行キットです。シンプルな構造のメタル製ギヤボックスといい、丁寧に組み込めば元気に走ってくれそうです。

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なんとなく全体のフォルムが掴める組み立て説明書の図。
90年代以降に登場した精密かつ正確なAFVキットを見慣れている目には、ビックリするほどおおらかで不思議な印象のキットに見えてしまいますが、これも歴史の生き証人です。
近いうちに、キットの持ち味を生かしつつ丁寧に作って楽しみたいと思います。

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バンダイ(日本)1/32 ジープ ウィンチ・無反動砲付き (1968年) [AFVモデル]

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BANDAI1/32 JEEP with 75mm Recoilless rifle & winch


その昔、少し古めの……ガンダムのプラモデルで一躍脚光を浴びる前の時代のバンダイ製プラモデルを買うと、小さなカタログがオマケに入っていました。
それに掲載されていてずっと気になっていたのがこの1/32ジープです。


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これはバンダイ純正のキットではなく、テトラ模型が設計したものがバンダイに移ったものではないだろうかと思っています。設計のクセやデフォルメのセンスが他のテトラ製品と良く似ているように見えます。
テトラが「U.S.機甲師団シリーズ」と銘打って1/32スケールのモーターライズ走行する各種のトラックなどを発売していたのが1967年。このジープはその後に続くラインナップとして製作されたものの、テトラの消滅で同社から発売されることはなく、先発のトラックのキットなどともにバンダイに移ってから発売されたのでしょう。


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恐らく……という言い方もおかしいのですが(笑)
全体の雰囲気から推測するに、M38ウィリスMCジープに大型ウィンチと75ミリ無反動砲M20を装備したかなり贅沢なジープを模型化しているらしいのですが、テトラ特有のデフォルメが効いていて、ジープに詳しい方だと車種の特定ができずに首を傾げてしまうような形に仕上がる愉快なキットです。


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全体のモールドは1960年代後半の国産キットとしては標準的なもので、シャシーとリジットリーフのサスペンションを別部品化したり75ミリ無反動砲の装填部や照準器部分を細かく再現したりと、かなり精密感には気を使っているのがわかります。


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ところが、例えばジープ特有のフロントグリルは漫画のようだし、シートの間には電圧計のようなメーターのある謎の計器がモールドしてあり、加えてエンジンフードを何故か先細りに成形してしまったため、もはやウィリスジープではなくなってしまって何処か別の国のクルマのようになってしまいました。
ちなみにヘッドライトにはムギ球を仕込んで電飾するように指示されています。


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車体前端の大型ウィンチにはゴムバンドを仕込んでおきます。
フックを指でつまんで引っ張ってワイヤーを伸ばし、指を離すとワイヤーがスルスルと巻き取られるというわけです。


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シャシーにFA-13モーターを載せて後輪を駆動させ、その電力供給は牽引する1/4トントレーラ内に納めた単三電池でおこないます。


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これは組み立て説明書に描かれている完成図ですが、キットの特徴をよく表現しています。
このスタイルを見ても、何を参考にして模型化したのか、よく掴めないのが正直なところです。
少なくとも海外製品のコピーではなく、テトラが独自に開発したものでしょうが、もしかするとその昔ハスブロ社が発売していたG.I.ジョー人形用の巨大な1/6スケールのジープや、モノグラム社製のジープを多少は参考にしているかも知れません。


―――― 人気者のジープのことですから、古今東西とても数え切れぬほどの各種モデルが発売されており、一説によると1990年代には金属製玩具なども含めて世界中で3000種類以上が確認されていたそうです。
ひとつの特定車種を扱ったアイテム数としては驚くべき量です。
ジープの生誕60周年をとっくに過ぎてしまった現代では、その数はもっともっと増えていることでしょう。

その中には、こんな珍品もあったのです。
僕はジープが大好きなので、できるだけ精密で素晴らしいプロポーションを持つ模型が欲しいといつも思っていますが、とはいえこういったキットは無理に改造してリアルにするよりも、正直にそのままの形で組み立てて、模型メーカー独自のアレンジによって実車とかけ離れたフォルムになってしまったという事実そのものを楽しむべきではないかと思ってしまいます。

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レベル(アメリカ) M4シャーマン (1956年初版) [AFVモデル]

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Revell1/35 M4 Sherman Tank

第二次大戦を代表する戦車として有名なM4シャーマン戦車の中でも珍しいタイプを模型化して、その後に登場した各社のプラモデルに多大な影響を与えた、おそらく世界最古のシャーマン戦車のキットです。

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少年時代から戦車のプラモデルは時折小さい1/76や1/48を作りながらも1/35スケールを主体に集めていましたが、当時1/35クラスで作れるシャーマンといえばニチモの1/35、相当古くて実寸も1/32に近いタミヤのM4A3E8、輸入品でなかなか買えなかったモノグラム1/32といったところでした。
そこで非常に気になっていたのが、レベルのシャーマンです。
このキット、実寸が1/35だということを古い模型誌で読んで知ったからです。
それ以来いくつか作りましたが、なかなか楽しいキットなので今もこうして見つけると思わず買ってしまいます。
骨董品的価値があるとはいえ、1956年の発売以来幾度となく再販されている長寿商品なので、よほど貴重な初版箱やモーターライズ版などではない限りベラボウなプレミア価格がつく品ではなく、比較的気軽にヴィンテージ・プラモデルの楽しさを味わえるキットでもあります。

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―――― ところでこのキット、冒頭にも少々書いたとおり車体などの形状を注意深く観察すると、多数のバリエーションが存在するシャーマン戦車一族の中でも一際ミステリアスな車種だということに気づきます。

恐らく、今更この古いキットの細部検証を本気でおこなう方もいらっしゃらないでしょうし、模型誌で詳しく採り上げられることも無いでしょうから、自由奔放な模型ヨタ話を心情とするこのブログならではのお題目として、本キットのちょっとしたリサーチを試みようと思います。



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車体はよく観察するとM4ハイブリット(後期型M4A1の鋳造車体前部と溶接構造を持つM4の車体主要部を溶接合成したもの。コンポジット・ハルとも呼ばれる)の特徴を持っています。
設計あるいは金型製作の際の何らかの都合か、コンポジット・ハルにしては車体のラインが滑らかにつながり過ぎていて、ちょっと見は後期生産型のM4A1車体に見えるし、コンポジット・ハル特有の車体に残る溶接加工の接合部分も再現されていませんが、これはスライド金型を使わずに生産したため金型に対して垂直面にはモールドが施せなかったということでしょうか。


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エンジンデッキ付近は、コンチネンタルエンジン搭載M4の特徴を持ちつつも、フォードGAAエンジンを載せたM4A3と同型の格子状大型点検パネルまでもが並んで表現されています。
リアパネルはかなり悩むところですが、大型のグリルを持つM4A3の特徴が見て取れます。


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サスペンションは後期型~戦後型シャーマンによく見られる広軌履帯用HVSS(水平ボリュートスプリングサスペンション)。
キャタピラは第二次大戦中から戦後までHVSS用として広く使用されたT-80スチールトラックを再現したものでしょう。


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車体前端部のディファレンシャル・カバーは、前期~中期型のシャーマンによく見られる“ダル・ノーズ”と呼ばれる丸みを帯びたものを再現しているように見受けられますが、形状がわずかに異なっています。
これはモーターライズ仕様キット発売を考え、内蔵するギヤボックスへの干渉を避けた結果かも知れません。


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砲塔はビジョンブロック付きコマンダーズキューポラと楕円形ローダーズハッチ、そして幅広のM34A1防盾を持つ、後期型75ミリ砲塔の特徴が確認できます。


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ついでにアクセサリーについても見ておきましょう。
初版は、まるで昔のライダーのようなヘルメットにゴーグル、しゃれたマフラーを巻いたダテ男の戦車長と5人の歩兵のフィギュアが付属していました。
何とも豪勢な内容です!
この写真は後の再版ものなので、歩兵の数が減らされてますが、こういった変更も時期によっておこなわれたいたようです。
フィギュアの作風は一体成形ならでは。金属モデルのような風合いがあり、丁寧に塗り分けると何とも味のある仕上がりになります。
デカールには「BLACK MAGIC」と書かれた派手なマーキングとストライプが描かれたペナントも含まれており、オリーブドラブ単一色塗装の車体に華を添えてくれます。



……このように車体、砲塔などの主要部分を細かく検証してみると、このレベル製シャーマンは極めて特殊な型式の車体なのだということがわかります。
つまり、これらの特徴を満たす「一般的な型式として量産され、広く部隊配備されたシャーマン戦車」は存在しないのです。
記録写真の豊富な資料書籍などをいろいろとあたってもみましたが、レベルのシャーマンと同じ形態を持つ実車写真を見つけることは出来ませんでした。

ただ、昭和52年初冬に出版された月刊モデルアート新年号増刊『連合軍を勝利に導いたシャーマン戦車』のシャーマン各型解説ページ中に、次のような記述があるのを発見しました。

「M4E8型中戦車:1943年シャーマンハイブライトI型のシャーマンおよび75mm戦車砲装備の砲塔を流用し、新型防盾、76mm戦車砲M1A1型、450HPのGAA型ガソリン・エンジよび水平懸架装置を装着した。」
(川井 幸雄 氏・原文ママ)

恐らくアメリカ本国で出版されたシャーマン戦車の詳細な資料書籍を翻訳したもののようで、他誌でも同じ記述を見つけることが出来ます。

この文面から見えてくるシャーマンは、主砲が長砲身76ミリだということを除けば、レベルのシャーマンとほぼ完全に合致する形態を備えています。
新型防盾というのは従来のものより幅広になったM34A1を指しているのでしょうし、本来コンチネンタルエンジンを搭載するM4シャーマンハイブリット型にM4A3が装備したフォードGAAエンジンを載せたということは、エンジンデッキの形状がM4とM4A3の特徴を併せ持つことにもつながるので、このキットのモールドのいちばん大きなナゾも解けるわけです。

なお、元来“E8”という名称は「シャーマン戦車シリーズの中で、水平ボリュートスプリングサスペンション(HVSS)を装備している車体」という意味の試作コードである……と述べた資料もあるので、HVSS装備型のM4は総じてM4E8に分類されるわけで、レベルのシャーマンも「M4E8」と呼称して差し支えないでしょう。
数あるM4E8の中でも、レベルの模型化したタイプは「限定制式」とでも言いましょうか、大量生産されて第一線の部隊に配備されたものではなく、恐らく各種のテスト車両として少量が作られただけのものだと思われます。

レベルのキットの部品形状や表面のモールド表現を観察すると、写真や図面だけで設計したキットとは思えません。
つまり、いろいろな型式のシャーマンの資料をゴチャマゼに使って設計したから、誤ってこんな特殊なタイプのキットになってしまった……というのではなく、とにかく「一度は実車を見てつくった模型」だと思われる雰囲気を持っています。
ですから、もしかするとレベルが模型設計のため何処かの陸軍基地の倉庫に残っていたシャーマンを取材した際、たまたまそれがこのM4E8だったということなのかも知れません。


というわけで、レベル社製シャーマンのキットが持つ特徴は、第二次大戦や朝鮮戦争などの記録写真で見られる一般的な量産型シャーマンには見られない、実に異様なものです。
それにも関わらず、ロコHO(1/87)や古いハセガワ1/32、そして田宮1/21のデラックスキット(レベルのキットの75ミリ主砲の部品を他から調達したマズルブレーキ付き76ミリ砲M1A1の部品に換えれば、二周りほど小さいタミヤ1/21シャーマンのレプリカが作れます)はたまたトンデモ戦車プラモの代表格でもあるサンワの「ゴードンタンク」の車体部分など、1960年代に出現した様々な「シャーマン戦車」プラモがこのレベルのシャーマンと同じ型式になっています。

このような例を見ても、1960年代初頭当時このレベルのキットが「シャーマン戦車の貴重で正確な資料」として各模型メーカーから大いに参考にされたことは想像に難くありません。


そしてさらに ――――――――

レベルは当時1/40スケールでミリタリー物をシリーズ展開しており、このシャーマンも1/40シリーズのひとつだと思い込まれていますが・・・初版のパッケージや付属の組み立て説明書などには、どこにも1/40スケールという表示はありません。
各部品を観察してみると、21世紀に入ってタミヤなどが発売した1/35スケールのシャーマン戦車系キットと寸法がほぼ合致しており、近年のシャーマンのキットと部品の互換性があるのではないか?と思わせるほど、きっちりと1/35クラスにまとめられています。
付属のフィギュアも他の同社1/40ミリタリーモデル付属のものと比べてかなり大柄で1/35クラスに仕上げられています。
このことから考えても「シリーズ共通の1/40として設計しておきながらウッカリ間違って1/35サイズになってしまった」と言うのではなく、明らかに最初から1/35スケールとして設計されたという雰囲気が濃厚であり、しかも後にはモーターライズ仕様まで発売されていたわけです。
車体部品の寸法を見てみると、モーターライズ製品として考えた場合、従来から同社がシリーズ展開していた1/40スケールでシャーマンを模型化するとギヤボックス及び電池を入れるスペースがいささか不足してしまうので1/35で設計したのではないか?という推測も成り立ちます。

……つまりレベルは、1950年代中盤の段階で、戦車兵と歩兵のフィギュアまで付属させたモーターライズ対応の本格的1/35戦車キットを企画・販売していたのです!

これが何を意味しているか?

レベル実寸1/35のシャーマンは各社のキットの参考とされただけでなく、偶然である可能性も高いとは言え、その後に世界を席巻した日本製モーターライズ戦車モデルが主要スケールとして1/35を採用、それが現在では世界的な主要スケールとして定着し、しかもAFVキットとフィギュア等との組み合わせによる楽しさがこの趣味のスタンダードとして普及したことを考えると……このレベルのシャーマン、まさに『偉大なる御先祖様』だったとは言えないでしょうか。

ちなみに、古いブラジル・レベル版の箱では他の同社ミリタリーシリーズに合わせるかのようにスケール表示が1/40となっていますが、後に再販されたアメリカ・レベル版では時流を反映して1/35表示に訂正されています。



……古今東西の有名戦車は時代を超えて幾多のメーカーから様々なプラモデルが発売されてきました。
そんな中、古典的な製品と新製品を現在の常識で単純に比較して「出来の善し悪し」を批評するのではなく、そのキットが発売された頃の時代性を考えて評価し、真のクォリティーを見極めて、歴史博物館をつくるつもりで歴代の有名キットを完成品としてコレクションするというのも、深みのある楽しい趣味だと常々思っています。
レベルのシャーマンは、そんな楽しさを堪能させてくれる逸品です。


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